ワケありヒロイン、大奮戦!
南フロリダを舞台にした新シリーズ第1弾
エレイン・ヴィエッツ『死ぬまでお買物』

 フロリダ。
 あなたはこの土地に、どんなイメージを抱いていますか?
 1年じゅうが常夏の楽園。人生を心から楽しんでいる、水着の人々であふれるビーチ。テーマパークならディズニーワールド、有名人ならヘミングウェイ、スポーツチームなら……。

 このたび創元推理文庫から刊行されるのも、そのフロリダを舞台にしたコージー・ミステリの新たなシリーズです。著者の名前はエレイン・ヴィエッツ。そして、物語の主役となるヒロインの名は、ヘレン・ホーソーン。
 ひとくちにフロリダといっても広うございますが、本シリーズの舞台となるのは南フロリダの大都市のひとつ、フォートローダーデール。大西洋に向かって大きなビーチが広がる、1年じゅう温暖な気候の、先に述べたイメージどおりの街です。

 第1作『死ぬまでお買物』で主人公のヘレンは、この街の大通りにある高級セレクトショップ〈ジュリアナズ〉の新米店員として、読者の皆さまの前へ現れます。ワケあって薄給暮らしを余儀なくされているヘレンにとって、いずれ劣らぬくせものぞろいのセレブたちである店長やお得意さまは、雲の上の存在。みな、あふれんばかりの富と美貌を持ちながら、なおも美容整形に心血を注いでいる、ヘレンには理解しがたい人ばかりです。
 とはいえ、彼女は単なる雇われスタッフ。そのうえ、世をはばかる事情を隠し持つ身とあっては、意見などできるはずもありません。
 だが、自分の働いている店で、何やらうしろ暗い取り引きが行われているらしいと、知ってしまったからには話は別。おまけに殺人事件まで起こったひには、立ち上がらざるをえません。自らの生活を守るため、ヘレンは下宿の大家や友人たちをも巻きこんで、独自に捜査を始めるのでした――

 店でのヘレンの悪戦苦闘、ひとつ屋根の下に暮らす男性とのロマンス、そして探偵活動の成果がどう出るかは、ぜひご自分の目で見てお楽しみ下さい。

 ……また、この文庫発売に先行して『ミステリーズ!vol.16』には、エレイン・ヴィエッツによるノンシリーズ短編「ウェディング・ナイフ」が掲載されます。じつはこれ、2005年度のアガサ賞とアンソニー賞をダブル受賞した逸品。ちょっとだけ雰囲気を味わってみたい人に、自信をもっておすすめできる短編です。この作品を読んで気に入られたら、ぜひ『死ぬまでお買物』も手に取ってみてください。

(2006年4月5日/2006年6月19日)