『密室の鎮魂歌(レクイエム)』で第14回鮎川哲也賞を受賞した、岸田るり子さんの第2作が、2006年4月に刊行されます。
美貌の新進作家・仁科千里のもとに原稿を貰いに行った私、魁出版の香川。
〈そうだ、この声だ。昔とちっとも変わっていない。それにしても、私に気づかないとは……〉
私は名刺を差し出した。彼女はそれを自分のほうに引き寄せて一瞬目を細めた。それからもう一度私の顔を見た。
〈ああ、気がついたのだ。私に〉
渡された原稿のタイトルは「出口のない部屋」
「読ませていただいていいですか?」
彼女はロボットのように無表情のまま頷いた。
*
それは、一つの部屋に閉じ込められた二人の女と一人の男の物語だった。
なぜ、見ず知らずの三人は、この部屋に一緒に閉じ込められたのか?
三人は、免疫学専門の大学講師・夏木祐子、開業医の妻・船出鏡子、そして売れっ子作家・佐島響。いったいこの三人の共通点はなんなのか?
三人とも気がつくと赤い扉の前に立ち、その扉に誘われるようにしてこの部屋に入ったのだった。そして閉じ込められたのだ。
あなたたちは、どういう経緯でここにやって来たの?
それぞれが記憶を辿り、その部屋に来るまでを話し始める。
*
私の知りたかったことはすべてそこに書かれていた。そして、〈出口のない部屋〉の意味も明らかに。
鮎川哲也賞受賞作家の鮮やかな手法!