“不可能犯罪”専門医、4つ目のカルテ
エドワード・D・ホック
『サム・ホーソーンの事件簿〈IV〉』

 冬真っ盛りのこの時季は、ついつい外に出るのもおっくうになりがちです。そんなときはいさぎよく、家の中で1日を過ごすことにして、暖かくした部屋で読書を愉しむのもおつなもの。そこで手にする1冊には、“御神酒(おみき)”を片手にした好々爺がとうとうと語る、不可能犯罪の数々が魅力的な『サム・ホーソーンの事件簿IV』を選んでみてはいかがでしょう。

 題名どおり、通算4冊目となる本書の主役はもちろん、アメリカの田舎町ノースモントに暮らす医師兼名探偵のサム・ホーソーン先生。
 このシリーズの最もユニークな点は、名探偵たるホーソーン医師が出くわす怪事件や謎、そのことごとくがいわゆる"不可能犯罪"であることです。思い起こせば、『サム・ホーソーンの事件簿 I 』に収録されたシリーズ第1作「有蓋橋の謎」で、橋の上から消えた馬車の謎を解いて以来、サム先生は密室殺人・人間消失・凶器の消失……などなど、ありとあらゆる不可能犯罪を解くことになります。その強運、なんともうらやましいような、うらやましくないような。

 本書『サム・ホーソーンの事件簿〈IV〉』には、やはり不可能犯罪づくしのシリーズ短編、第37〜48作目までと、ボーナス短編1編の全13編が収録されています。ここで、その内容の一部をご紹介しましょう。

 ・街に出かけたホーソーン医師は、銀行強盗の瞬間を目撃し、居合わせたレンズ保安官と車で追跡する。だが、強盗一味を乗せた自動車は、路上からどこへともなく消えてしまった……(「黒いロードスターの謎」)。

 ・通電フェンスで敷地を囲い、庭には猛犬を放った農家に住む親ドイツ派の男が、その室内で殺されているのが発見される。おまけに、家は前日からFBIが監視していたが、その間出入りした者は皆無だという……(「要塞と化した農家の謎」)。

 ・「雪に閉ざされた山小屋の謎」(『サム・ホーソーンの事件簿〈III〉』収録)で結婚した元看護婦のエイプリルに、待望の男児が誕生。その洗礼式に駆けつけるホーソーン医師だが、彼や家族が見守る中、赤ん坊は密室状態の教会から、忽然と姿を消してしまう……(「田舎教会の謎」)。

 相変わらず、謎づくりのうまさは健在ですが、このシリーズが支持される理由は、それだけではありません。作中にさりげなく盛りこまれている1930年代アメリカの風俗を探してみるのも一興ですし、シリーズものならではのお楽しみも、ちゃんと備わっているのです。
 例えば冒頭を飾る「黒いロードスターの謎」では、謎解きと並行して新しい看護婦メリー・ベストとの出会いが描かれますし(前任のエイプリルとは異なり、積極的に事件と関わる彼女は、その後何度もホーソーン医師を助けて活躍します)、「呪われたティピーの謎」では、サム先生はホックの創造した数ある名探偵のひとりである、西部探偵ベン・スノウとの競演を果たします。
 ベン・スノウ? それってどんな人? というかたもご安心を。今回のボーナス短編には、そのベン・スノウものの中から「フロンティア・ストリート」を用意しました。西部劇とミステリが合体した、1粒で2度おいしい1編です。
(2006年1月5日)