名手が織り上げる豪奢な幻想ミステリ集
篠田真由美『螺鈿の小箱』

螺鈿の小箱

 篠田真由美氏の幻想ミステリ集、『螺鈿(らでん)の小箱』をお届けします。

 篠田真由美氏といえば、大人気シリーズ《建築探偵桜井京介の事件簿》で名高い存在ですが、しかし篠田作品の魅力はこの連作のみに留まるものではありません。本書には《建築探偵》シリーズとはまったく違う雰囲気を纏った、幻想的で、蟲惑的な短編ばかりを収めました。

《お城》で「ごっこ」遊びに戯れる姉弟。自らを思い出の檻の中に閉じ込め、人形と日々を送る少女。幽霊が出没するという洋館の視察に向かった日本人青年。――サイゴンの熱気の中で、幻の満開の桜の下で、古ぼけたホテルのバーで、第二次大戦時の上海の妓楼で、秘めやかに繰り広げられる幻想の宴。そしてそれらのなかに密やかに籠められた仕掛けの妙が、作品に一層の華を添えます。

 アンファン・テリブル(恐るべき子供たち)テーマの典雅な達成点「ふたり遊び」、密室が登場する「暗い日曜日」、官能的な恐怖が描かれた「象牙の愛人」などいずれも読ませますが、とりわけ巻末に収録された「天使遊び」はこの作品集のために書き下ろされた力作で、この作品集の白眉と言えるでしょう。

 各短編をひとつずつじっくりと味わって戴くも良し、纏めて読んで絢爛たる美しさに酔って戴くも良し。アジアの風土とヨーロッパの退廃的な文化の配合が生み出す、幻想の精華を御堪能ください。A5判上製、中島かほるさんの美麗な装幀に包まれた、豪奢な作品集です。

■収録作品
人形遊び
暗い日曜日
象牙の愛人(ラ・マン)
双(ふた)つ蝶
ふたり遊び
春の獄(ひとや)
天使遊び

(2005年10月5日/2005年11月7日)