幻のミステリ・デビュー作、ついに文庫化!
田中啓文『落下する緑』

「本格物、文章が素人ばなれしている、人物が活きている。探偵の性格づけにも成功」(『本格推理2』より引用)と鮎川哲也に絶賛された、幻の著者ミステリ・デビュー作「落下する緑」に始まるジャズミステリ連作集。第2回ファンタジーロマン大賞の佳作となった『凶の剣士』(後に『背徳のレクイエム』と改題)よりも、「落下する緑」の入選の報が早く、長いあいだ幻の作品と呼ばれてきました。2003年、弊社刊《ミステリーズ!》誌上で華麗に復活を遂げた、天才サックス奏者・永見緋太郎の活躍にご期待ください。

 唐島英治は、ジャズバンド、唐島英治クインテットとして都内のジャズクラブを拠点に活動しているトランペット奏者。ともに活動するテナーサックス奏者の永見緋太郎は、腕前もさることながら、鋭い観察眼と推理力を持った若者である。ただし音楽以外にはまったく興味を持たない。そんなある日、唐島は永見の見分を広めるために、デパート主催の絵画展へと連れ出した。そこで大作「落下する緑」にまつわる事件に遭遇する。犯人は何者で、どんな意図があったのか――。

「落下する緑」「揺れる黄色」「反転する黒」「遊泳する青」「挑発する赤」「砕けちった褐色」の6本に、さらに書き下ろし「虚言するピンク」を加えた“日常の謎”的連作短編集。

 各章末に「田中啓文の『大きなお世話』参考レコード」と称したジャズ・レコード・ガイド付。著者自らチョイスした名盤や、小説の雰囲気にマッチした作品を紹介しています。ジャズ好きの方も、もちろんそうでない方も楽しめる本格ミステリに仕上がっています。

2008年8月末に、待望のシリーズ第2弾『辛い飴』が刊行されます。ますます磨きのかかった、永見緋太郎の名推理をご堪能下さい。

(2005年10月5日/2008年7月7日)