型破りな構成と巧みな語りが冴える大作
ジェレミー・ドロンフィールド
『サルバドールの復活』

 2002年。ひとりの英国作家のデビュー作が、わが国翻訳ミステリ界の話題をさらいました。

 サイコスリラーを巧みな語り口で再構成して、読む者に斬新かつ多大な衝撃を与えたその作品『飛蝗(ばった)の農場』の著者こそ、ジェレミー・ドロンフィールドその人であります。

 そのドロンフィールドが、『飛蝗の農場』の翌年に発表した第2作が、このたび刊行される『サルバドールの復活』です。『飛蝗』を読まれたかたの中には、本書の内容に触れた訳者あとがきの一節を、記憶にとどめているかたもいらっしゃることでしょう。

「現在と過去が入り乱れ、手記や日記、さらには作中小説やコンピューターゲームのプロットや大学の試験問題文までもが挿入される構成」
(『飛蝗の農場』訳者あとがきより抜粋)
 この説明に、嘘偽りはありません。語り手も形式も異なる、さまざまな種類の文章を、『飛蝗』以上に磨き抜かれた構成と叙述で読ませる物語の一大建築、それが『サルバドールの復活』なのです。

 ほんの少しだけ、物語のさわりをご紹介しましょう。

 ときは1998年の冬、ところはデヴォンの片田舎。4人の女性が、7年ぶりの再会を果たします。名前はベス、オードリー、レイチェル、そしてリディア。彼女たちは、かつてケンブリッジ大学に籍を置く学生であり、ひとつの家で共同生活を送る友人同士でもありました。卒業後それぞれの道を選んで、離ればなれになった4人が再び顔を合わせることになったのは、皮肉にも仲間のひとり、リディアの葬儀が行われたためでした。

 大学時代に知り合ったサルバドールという天才ギタリストと結婚したのちは、友人たちと疎遠になっていたリディア。最愛の夫とも死別したあとは、どのような人生を送っていたのか……。

 つつがなく葬儀も終わり、どこか気まずい挨拶を互いに済ませたあと、旧友3人のうちベスとオードリーは、サルバドールの母ジュヌヴィエーヴから意外な申し出を受けます。由緒ある高貴な一族ド・ラ・シマルド家の末裔であるジュヌヴィエーヴは、荒野にそびえ立つ自らの城へと、丁重にふたりを招待するのでした――

 この先は、どうぞご自分でお確かめください。城へおもむいたふたりが体験する出来事はもちろんのこと、並行して語られる4人の学生時代のエピソードもまた、実に興味深い物語です。そしてさらに……いえ、これ以上語るのは野暮というものですね。とにかく、読後の満足感は保証いたします。

 上下巻合わせると800ページ近い大作ではありますが、先へ先へと読ませる力は抜群。小説を読む喜びを、たっぷり感じていただけるはずです。

(2005年9月12日/2005年10月5日)
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