グレッグ・イーガン『万物理論』が
2005年度星雲賞を受賞

 『SFが読みたい!2005年度版』ベストSF2004海外篇第1位、「本の雑誌」2004年SFベスト第1位、『本の雑誌増刊・おすすめ文庫王国2004年版』ジャンル別ベスト10・SF第1位など数々の栄誉に輝いた、グレッグ・イーガン『万物理論』が、今年2005年で36回を数える、星雲賞海外長編部門を受賞しました。


星雲賞受賞の言葉

翻訳者 山岸真氏からのメッセージ

 世界のSF賞の中で、星雲賞の海外長篇部門ほど歴代受賞作にSFらしいSFが多い賞もないと思います。もう少し具体的にいうと、SF的なワンダーが作品のコアに剥きだしで据えられた作品にあたえられることが多い、というところでしょうか。ホーガンやベイリーなど、大胆な発想や論理のアクロバットを持ち味とする作家が繰りかえし受賞しているのはそれゆえでしょうし、アンダースン『タウ・ゼロ』やシェフィールド『マッカンドルー航宙記』のようなハードSFがしばしば受賞するのも同じ理由からでしょう。
 今回、『万物理論』がその受賞作の末席につらなることができたのは、訳者としてとてもうれしいことです(というか、いまの個人的なSF観からいえば、本書こそSFの面白さのどまん中に位置する作品なのですが)。この受賞をきっかけとして、より多くのかたに本書の、そしてSFの面白さに触れていただければ、さらにうれしく思います。
 正直、この作品にはむずかしい科学的説明も多いのですが、そこが完全に理解できなくても、ストーリーはわかりますし、コアとなるワンダーを味わうのにはさしつかえありません(もちろん、理解できるかたはそこも存分にお楽しみください)。そしてまた、本書はSF的なワンダーと同時に、作中の随所で語られる作者の科学観も大きな読みどころとなっています。とくに第6章の「Hワード」をめぐる議論には、目ウロコのかたも多いのではないでしょうか。そうした議論の数々は、いまの時代に少しでも大勢のかたに読んで、考えていただく価値のある部分だと信じます。
 最後に、この作品に投票してくださったみなさん、この本の編集・出版・販売等のすべての関係者のかたがた、どうもありがとうございました。


星雲賞とは?
 星雲賞は前年度中に発表もしくは完結したSF作品を対象として、毎年行われる日本SF大会の大会の参加者の投票によって選ばれた作品に対して、日本SFファングループ連合会議(アマチュア運営による全国のSFサークルの連絡組織)から贈られる文学賞です。1970年から続いており、歴史ある賞といえます。これは、同様に世界SF大会で贈られているヒューゴー賞に倣って創設されました。

星雲賞のもとになったヒューゴ−賞とは?
 ヒューゴー賞 (The Hugo Awards) は、世界SF大会参加者の投票によって決定される、SF界ではもっとも有名な文学賞です。〈アメージング・ストーリーズ〉誌を創刊してアメリカSFの礎を築いたヒューゴー・ガーンズバックにちなんで名づけられています。1953年に「SF功労賞」 (Science Fiction Achievement Awards) として単発で贈られたものが、1955年以降「ヒューゴー賞」という正式名称となり、以降現在まで毎年発行されています。

では、ネビュラ賞とは?
 SFに与えられる賞としては、アメリカSFファンタジー作家協会 (SFWA) が選ぶネビュラ賞(The Nebula Awards)も非常に有名です。ネビュラ賞は、過去2年間のうちにアメリカ合衆国内で出版・発表されたSF作品を対象に、毎年授与する文学賞です。

 同じ作品がネビュラ/ヒューゴー両賞を同時受賞するという例も少なくなく、そういった作品は「ダブル・クラウン」と呼ばれています。
 ヒューゴー賞はファン投票によって選ばれる賞ですが、これに対してネビュラ賞は、SFWAに所属の作家、編集者、批評家などの、SFのプロが選出する賞と言えます。

(2005年8月10日)