異国船の漂着は、閉ざされた島に何をもたらすのか
第7回鮎川哲也賞受賞作
満坂太郎『海賊丸漂着異聞』

海賊丸漂着異聞  文久3年。伊豆七島のひとつ、御蔵島(みくらじま)にアメリカの商船が漂着する。折しも時は攘夷の機運が高まる中で、御蔵島は当面の緊急事態を凌ぐだけでなく、幕府への申し開きもしなくてはならない。ましてや、400人を遙かに上回る人数の、言葉どころか意思の疎通もままならない異人たちが上陸するとなれば、島はどんな危険にさらされるか知れたものではない。頑強な清国人労働者と、短筒など未知の武器を扱う米国人。若き島役の市左衛門が交渉役をかってでるものの、清国人のリーダー、黄慶栄の手練の交渉術に翻弄され、一筋縄ではいかない。そんななか、座礁した異国船の中で死体が発見される。

 さらに島は、もうひとつの難題を抱えていた。流人の子が名主の息子と対立し、彼に重傷を負わせた件で、島役たちの間では意見の対立が生じていた。さらに、名主は事故に遭う恐れのない路で行方知れずとなり、入獄していた流人の子は厳重に鍵の掛けられた牢獄、いわば強固な密室から忽然と消え失せる。

 つづけて起こる数々の奇怪な事件。幕府の役人とともに訪れたジョン・万次郎と市左衛門が、不可思議に挑む。


 第7回鮎川哲也賞を受賞した『海賊丸漂着異聞』は、本格ミステリとしてだけでなく、幕末を舞台にした時代小説としても非常に読み応えのある作品です。普段から時代小説に親しんでいる方は勿論、初めて時代物を手にする方にもお勧めいます。

 異国の人々と意思疎通をする喜びを見いだした島の書役、市左衛門は、一筋縄ではいかないものの人望も教養もある清国人のリーダー、黄慶栄との対話や、米国人の乗組員たちとのふれあいを通して、世界の広さを学びます。

 さらに、島にやってきたジョン・万次郎とともに過ごした日々は、かけがえのない経験となって彼の将来に影響を及ぼします。異国船漂着が島にもたらした、ささやかながらも確実な変化とはいったい何か。是非お手にとって確かめてみてください。

 文久3年、御蔵島に異国船が漂着したという事件は歴史的な事実です。



(2005年2月10日)