愛と復讐の壮絶な英雄叙事詩
カーネギー賞、ガーディアン賞受賞作家
メルヴィン・バージェス
『ブラッドタイド』

ブラッドタイド  舞台は近未来のロンドン。暗黒街に支配されたこの都市を、政府は見捨て、新しい首都ラグノールを築いた。ロンドンに残されたのはギャングと貧民のみ。政府はロンドンの周りを、人間と獣とを混ぜ合わせた獣人たちが住む中間地帯で囲み、中の住民が外に出られないように封鎖してしまった。

 中間地帯に住む獣人たちの間では、いにしえの神々が甦っているとの噂がたち、生け贄を捧げる者が後を絶たないという。

 その、周囲の世界から閉め出され孤立したロンドンの中では、対立する二つのギャングの家が街の支配権をめぐり、激しい抗争を繰り返していた。

 ヴァル・ヴォルソン、別名ヴァル王は、ロンドンの南半分を支配するギャング、ヴォルソン家の当主。彼はロンドン統一し、さらには獣人たちを打ち破って外の世界を征服することを夢見ていた。

 そのためにまず彼が打った手は、愛娘シグニーを対立するギャングの当主コナーに嫁がせること。

 いやいやながらも同盟のためと、旧敵のもとに嫁ぐ14歳のシグニー。彼女の結婚に反発する双子の弟シギー。

 だが、コナーに会ったシグニーは、皮肉にも彼と恋に落ちる。これまでの長い抗争の歴史を超えて愛し合う花嫁と花婿。そして、二つの家の同盟に熱狂する民衆たち。

 そんななか二人の結婚の席に、不思議な片目の男が現れる。ラグノールのスパイかと疑われ、拷問の果てに殺されたかに見えたが、死ぬこともなく、荒削りの石のナイフをクリスタルの柱に突きさし、それを抜くことができたものに与えると告げる。コナーも、ヴァルも、ヴァルの息子のうち年上の二人も試みたが果たせず、唯一抜くことができたのはシギーのみ。

 果たして片目の男は神なのか? シグニーとコナーの恋の行方は? ナイフを手にしたシギーの運命は? そしてヴァルの野望は?

 『ニーベルンゲンの歌』や、ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指輪』の基になったといわれる北欧神話の「ヴォルスンガ・サガ」を近未来のロンドンに甦らせた、愛と復讐の壮絶な英雄叙事詩。

 『メイの天使』『エイプリルに恋して』『ダンデライオン』で、少年少女の姿を瑞々しく、またせつなく描いた、カーネギー賞・ガーディアン賞受賞作家メルヴィン・バージェスが贈る、絢爛たる神話ファンタジーの世界をお楽しみください。

(2005年2月10日)
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