イラク戦争(コラム by峯正澄)
日本時間の三月二〇日午前一一時三三分、米英軍は「イラクの自由」作戦と名付けられたイラクへの攻撃を開始した。日本のテレビ局は、待ち受けていたように、臨時特番に切り替えた。「笑っていいとも」とか「おもいっきりテレビ」といったのどかな昼の番組は休止になった。湾岸戦争のときと同じく、テレビ画面は戦争で埋め尽くされ、そしてわれわれも、あのときと同じようくリビング・ルームにいて、にわかな戦争通になっていったわけだ。
私はテレビを消し、ラジオをつけた。「こんにちわコンちゃん昼ですよ」は、いつも通りやっていた。パーソナリティのコンちゃんが、さまざまな話題に、たいていは主観的に反応して、怒ったり、感心したり、悲しんだりする昼のAM放送らしい番組で、こういう番組を、たとえば散髪屋で聞くのが、私はわりに好きなのである。
だがこの番組にも戦争の影がさしていた。「ジャパネットたかた」のラジオ・ショッピングのコーナーがあるのだが、普段はけたたましいくらいに元気いっぱいの高田社長が、この日は沈んだ調子で出てきて、「こんなときになんですが」と遠慮がちにいいつつ、掃除機かなにかをしょんぼりと販売したのである。
それから三週間、英米軍は、さしたる抵抗も受けず、バグダッドを陥落させた。巨大なフセイン像を見つけ、それを倒すところがテレビに映された(この時点で、フセイン本人はまだ見つかっていない)。ブッシュ大統領は執務をしていて、それをナマで見ることは出来なかったが、あとで見て声をあげて喜んだのだそうだ。そのときプレッツエルを食べていたかどうかはわからないけれども。
アメリカの大統領が、空母エイブラハム・リンカーンの艦上で戦闘終結を宣言したのは、日本時間の五月二日だった。操縦士と同じ軍服を着て、米軍機で颯爽と空母に降り立ったのである。この俗悪な演出は、大統領自身が望んだことだそうだ。得意満面のブッシュの顔を、私は、やはりテレビで見ながら、あのもつれた二〇〇〇年の大統領選のことを思い出していた。ほんとにこの人は、大統領になったのかしら。
(2004年6月10日)
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