文庫特別書き下ろし
軽妙洒脱なクライム・コメディ
浅暮三文『ラストホープ』

ラストホープ 『ラストホープ』は浅暮三文さんの最新長編です。

 浅暮作品といえば、日本推理作家協会賞受賞作『石の中の蜘蛛』に代表される〈五感シリーズ〉を思い浮かべる方も多いでしょう。たしかに、人間の五感をテーマに据えた幻想的な長編群――『カニスの血を嗣ぐ』(嗅覚)・『左眼を忘れた男』(視)・『石の中の蜘蛛』(聴覚)・『針』(触覚)が現時点における浅暮さんの代表作、と申し上げても間違いではないと思いますが、浅暮さんの作風はそれだけには留まりません。〈五感シリーズ〉が文学実験的な方向性を持つ連作である一方、たとえば長編『殺しも鯖もMで始まる』のように、軽妙でユーモラスな作品も存在します。思えばデビュー作『ダブ(エ)ストン街道』の頃からユーモアは浅暮作品の重要な武器でしたが、そのユーモアは近年ますます軽妙で飄々としたものになりつつあるような気がします。本書『ラストホープ』は、そのユーモアが前面に押し出されたクライム・コメディです。

 元宝石泥棒の東堂と刈部が経営する小さな釣具店《ラストホープ》に送られてきた一枚のファクス、それがすべての始まりでした。病床の父のために多摩川の山女魚を入手したいとの依頼を受けて、東堂は多摩川に出向き山女魚を釣り上げますが、その途端何者かに襲撃されます。謎の依頼人の正体を調べ始めたふたりでしたが、《ラストホープ》にはまたしても同様の依頼を書き記したファクスが届きます。困惑するふたりは、いつの間にか一億争奪ゲームの真只中に――。

 ドナルド・E・ウェストレイクの傑作シリーズ〈泥棒ドートマンダー〉に触発されて想を練ったという浅暮さん会心の力作、文庫特別書き下ろしの形でお届けします。〈最後の希望〉を売る店の愉快な悪漢コンビが奮闘する軽妙洒脱な物語、どうぞ御期待ください。

(2004年6月10日)
※本書『ラストホープ』刊行を記念して、浅暮三文先生ご自身による豪華愛読者プレゼント企画が実施されました。詳細はこちらをご覧ください。なお、このプレゼント企画は2004年7月31日に申込みを締切りました。

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