驚異に満ちた物語の贈り物
キアラン・カーソン『琥珀捕り』

「キアラン・カーソンも、少しも負けていない。澁澤龍彦が『世界大百科事典』において一段落の規模で成し遂げたことを、カーソンはまるごと一冊の規模で、しかも強度を少しも減じることなく、成し遂げているのである。」
──柴田元幸(解説より) 

琥珀捕り  ローマの詩人オウィディウスが描いたギリシア・ローマ神話世界の奇譚『変身物語』、ケルト装飾写本の永久機関めいた文様の迷宮、中世キリスト教聖人伝、アイルランドの民話、フェルメールの絵の読解とその贋作者の運命、顕微鏡や望遠鏡などの光学器械と17世紀オランダの黄金時代をめぐるさまざまの蘊蓄、あるいは普遍言語や遠隔伝達、潜水艦や不眠症をめぐる歴代の奇人たちの夢想と現実──。数々のエピソードを語り直し、少しずらしてはぎあわせていく、ストーリーのサンプリング。伝統的なほら話の手法が生きる、あまりにもモダンな物語!


『琥珀捕り』は文学においてのカモノハシに相当するもの──分類不可能にして興味をひきつけずにおかない驚異──の卵を孵化させた。
──インディペンデント紙 

この本にはいたるところに琥珀にまつわる歴史や蘊蓄やイメージや比喩がちりばめてある。めくるめくような情報の洪水をかきわけて読み進む読者は、ページを繰りながらときおり琥珀の小片を拾うことになるだろう。道中で拾われる琥珀片は敏捷な旅の神ヘルメスからの贈り物であって、物語どうしを繋ぎ、変容させるエンブレムである。琥珀をポケットに入れていけば、道に迷いがちな読者を導く道中守りとなる。
──栩木伸明・訳者あとがきより 

●キアラン・カーソン(Ciaran Carson)
1948年、北アイルランド、ベルファスト生まれの詩人・作家。ウィスキーを愛し、伝統音楽家としてフルートを演奏し、英語とゲール語の伝統歌謡も達者である。ノーベル文学賞を受けたシェイマス・ヒーニーに続く世代を代表する詩人として、ポール・マルドゥーン、メーヴ・マガキアンと並び称される存在である。エリック・グレゴリー賞、アイリッシュ・タイムズ文学賞、T・S・エリオット賞などの受賞も多い。現在も詩集の発表はもとより、2002年にはダンテ『神曲』の翻訳を上梓するなど、活発な活動を続けている。邦訳に『アイルランド音楽への招待』(音楽之友社)がある。

(2004年2月15日)

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