パンプルムース氏ってだあれ?

 「くまのパディントン」の産みの親、マイケル・ボンドがおとなたちのために書いたとんでもなくおかしいミステリ・シリーズが、ついに創元推理文庫に登場しました。

 マイケル・ボンド氏、この作品を発表するのに、ペンネームを変えるかどうしようか、大いに悩み、編集者ともディスカッションを重ねたとか……なぜかですって?
 そ・そ・そ・それは、あの・その、お読みになってみてのお楽しみ……?!!!
 イギリス国内のパディントン・ファンからは、しばらくのあいだ抗議の手紙も届いたのだそうですよ。はっはっは。
 このシリーズに火がついたのは、まだパディントンがそれほど読まれていなかったアメリカの方が先だったとか。もちろん、今や本国イギリスでも、しゃれたおとなのミステリとして13作も刊行され、シリーズに夢中になっている人々がいっぱい。ポムフリット・ファンもワンサカです。

 このグルメ探偵パンプルムース氏について、もっと知りたいあなたのために……え? パンプルムース氏ではなくて、ポムフリットがお気に召しましたですって? はいはい、素晴らしき犬ポムフリットについてもご紹介致しましょう。

 パンプルムースとはフランス語でグレープフルーツのこと、ポムフリットはフライド・ポテト(パリのカフェやビストロで「ステック・フリット」と注文すれば、山のようなフライド・ポテトのついたステーキが出てきます)のことなんです。
 で、そのパンプルムース氏ですが、由緒あるグルメ・ガイドブックの覆面調査員。全国のレストランをめぐり、味を採点、ミシュランの〈星〉のように、〈赤鍋印〉をいくつ与えるかを決める大変な食通というわけです。彼は実は元パリ警視庁刑事。ちょっとした女性がらみの問題で退職を余儀なくされたという、いわくつきの人物。
 そしてそして、ポムフリットくん。元警察犬。味にうるさいグルメ犬。年を取り過ぎたということで、老犬ホーム送りになるところをパ氏に引き取られたといういきさつがあるのです。

 こんな二人(?)が活躍するミステリとくれば、創元推理文庫ファンなら、もう読まずにはいられません……でしょう?
 とにかく、おかしい! そして美味しそう!
読みながら、よだれが垂れてしまうのが難点ではありますが(それに、ワインがほしくなるのはほぼ間違いなし。ワイン振興会とかワイン協会とかから表彰されてもいいのではないかしらん)、いやあこれは傑作でありますよ。とにかく、ぜひ御一読を。
 パ氏はともかく、ポムフリット・ファン・クラブ設立の声があがること間違いなし。


『パンプルムース氏対ハッカー』

 朝刊を読んだパ氏の目に飛び込んできたのはわれらが『ル・ギード』の編集長死亡の記事だった! その日は新年度版『ル・ギード』の入稿日で、恒例のパーティの日だというのに。急遽、喪服に着替えたパ氏が喪章をつけたポムフリットとともに社に駆けつけると、喪服の波と押し寄せた取材陣の中、声高に生存を訴えていたのは、なんと当の編集長。
 そして、社内のOA化についての大演説が始まり、それに続く大パフォーマンス。コンピュータが、おすすめレストランの名を打ち出した……と思ったら、出てきたのは悪名高いテイクアウト専門の中華の店の名だった。データが改竄されている! 悪意に満ちた陰謀が渦巻いている! いったい誰が何の目的で……? ライヴァル会社か、はたまた社内の人間の仕業か?
 大捜査だ。となれば元警部のパ氏の独壇場だ。しかし、相手がハッカーとなると苦手のコンピュータ入門から始めなければならない。
 ひと味もふた味もちがうパ氏の大活躍。今回は経理担当のマダム・グラントが、意外や意外の顔を見せ、シリーズ中屈指の面白さ。いったいどんな顔かって……? それはもう、あなた、これこそ、読んでのお楽しみデス。なにしろマダム・グラントはヴィオレーヌなんていう美しい名前だということもわかるのですよ、フッフッフ。
 ポムフリットだって健在だ。警視庁在職中に「黄金の骨賞」を取った鼻を利かせて、元警察犬の面目躍如。手に汗握る決死の大追跡劇を見せてくれます。これは絶対必読の一冊。
 グルメでもグルメでなくても、楽しめること請け合いです。
大好評の既刊5冊『パンプルムース氏のおすすめ料理』 『パンプルムース氏の秘密任務』 『パンプルムース家の犬』 『パンプルムース氏のダイエット』 『パンプルムース氏と飛行船』も是非お読み下さい。

アリスティド・パンプルムース氏

1928年1月10日、フランス、オーベルニュに生まれる(ちなみに、担当編集者と誕生日が同じ!)。
星座/山羊座。
身長/172p。 体重/98s。
すまい/パリ18区、モンマルトルのジラルドン街、小さな公園に面したアパルトマンの8階。最寄りのメトロの駅はラマルク・コーランクール。バスなら80番のバスでリュ・コーランクール下車。
既婚/1964年に結婚。妻の名はドゥーセット。
最後の晩餐に食べたいもの/ポール・ボキューズの店のトリュフ・スープ。
好きなアルコール/アルマニャック1928年もののレゼルブ・ダルタニャン。
 作者自身の話によれば、1981年、ローヌ渓谷のヴァランスの町のヴィクトル・ユゴー通りにあるレストラン・ピック(アウディのショー・ルームの向かい)で、突如パンプルムース氏という人物が彼の頭の中に出現したのだそうです。

ポムフリット

雄のブラッドハウンド犬。
2月のなかば生まれ。 星座/水瓶座。
体重/45〜50s。
毛色/黒と黄褐色と赤が混じる。胸に少し白い毛。目ははしばみ色と黄色の中間。
顔の特徴/悲しげ。耳が大きい。
警察犬としては最高の栄誉「黄金の骨賞」を受賞している。
 ポムフリットくんという存在は、パ氏というキャラクターが閃いたレストラン・ピックの女主人について歩いていたジャンカンという名の犬からきたのだそうで、この犬くんは、レストラン内のすべてを見守り、決してディナーの邪魔をすることなく、客の注文がお気に召した時には静かにうなずく、ように見えたんだそうな……。そこで、マイケル・ボンド氏はすかさず、パ氏の相棒は犬だ、と心を決めたとのこと。

 さあ、それでは皆さん、パンプルムース氏とポムフリットの美味なる世界にどうぞ!

(2004年1月15日)
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