小説でこそ味わえる恐怖……『閉じた本』
ギルバート・アデア/青木純子訳

◇ヒッチコック的という人がいるかもしれない。が、しかしこれは小説以外では表現不可能な恐怖だ!  ――スティーヴン・プール

◇鮮やかな手際!  ――〈ザ・スペクター〉

◇結末にやってくる驚き、実に冴えた独創的なスリラーと言っていいだろう。  ――〈オブザーバー〉

閉じた本  この奇妙なタイトルの作品は、『作者の死』や『ラブ&デス』等の小説や、20世紀文明論の『ポストモダニストは二度ベル鳴らす』などですでにその名を知られた、イギリスの作家・批評家、ギルバート・アデアの心理サスペンス小説です。会話と独白のみで書き上げられた恐るべき小説は、ひとたび読み始めたら、結末まで読み通さずにはいられないはず。

 主人公はブッカー賞作家。交通事故でほとんど顔を失ったといってもいい状態で眼球もない。ひっそりと郊外の家に隠棲し、世間と隔絶した生活をしています。ある日この作家が新聞に求人広告を出します。口述筆記用の助手の募集です。
 応募してきたのは、青年ジョン・ライダー。面接に彼がやって来たところから話は始まります。
作家ポールの無惨な顔貌にたじろがずに、みごとに職を得たジョン。その日から見えないポールの眼となったジョンは、作家の望む仕事をあざやかにこなし始めます。新しいマックを買い、彼の回想録の口述を打ち込んでいく……。
 久しくしていなかった散歩に付き添うこともすれば、休みをとった家政婦の代わりをつとめて、料理もこなし……。ポールは、この青年のいない生活は考えられないとまで思うようになります。
 何も見えないポールが、現実を知るのはジョンの言葉を通してだけ。そして読者は二人の、あるいはそこに加わる第三者との会話だけが頼りなのです。

 すべて順調に進んでいるようでしたが、何かがおかしい……。
 ちょっとしたきっかけでポールは恐怖に襲われます。ジョンという眼を得たのに、実は彼は以前よりも深い闇の中に引き入れられているのかもしれない。
 彼の恐怖はそのまま読者の恐怖となり、胸苦しさが増していきます。
 いったいジョン・ライダーとは何者なのか? なぜここにいるのか?
 そして、結末の驚き!

(2003年9月12日)
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