本格ミステリの精神に満ちた傑作登場!
大倉崇裕『七度狐(しちどぎつね)』

 『三人目の幽霊』でデビューを飾った大倉崇裕氏の初長編がいよいよお目見えとなりました。全き本格のテイスト、これぞミステリの醍醐味というべきものをお楽しみいただける仕上がりです。まずは著者から一言いただきましょう。


「この作品は、日常の謎ではありません」

 〈季刊落語〉編集部勤務を命ず。――という衝撃の辞令から一年。落語と無縁だった新米編集者・間宮緑(まみやみどり)も職場に定着し、時に名探偵ぶりを見せる牧大路(まきおおみち)編集長の透徹した洞察力に舌を巻きつつ落語編集道に精進する日を送っております。(牧の名推理については創元クライム・クラブ既刊『三人目の幽霊』所収の五編を御覧ください。)

「静岡に行ってくれないかな」唐突に春華亭古秋(しゅんかていこしゅう)一門会の取材を命じられ、北海道へ出張している牧の名代として緑は単身現地入り――と今回のお話『七度狐』が始まります。
 この一門会は、引退を表明している当代の古秋が七代目を指名する、落語界の一大関心事。なのに何故こんな片田舎で? 緑は疑問を募らせます。ここ杵槌村(きねつちむら)はかつて狐の村と呼ばれ温泉郷として栄えたものの、今や往時の面影はなく過疎化の波に呑まれているのですから。
 世襲とされる「古秋」の名をかけて落語合戦に挑むのは、六代目の息子たち、古市(こいち)、古春(こはる)、古吉(こきち)。いずれ劣らぬ名人芸に感心しきりの緑であります。

 さてさて、一門会目前、折からの豪雨に鎖され陸の孤島と化した村に見立て殺人が突発。そうこなくっちゃ! の展開を迎えます。警察も近寄れない状況にあっては、電話でいくら訴えても牧編集長とて手の打ちようがありません。やがて更なる事件が起こり、緑は巻き込まれ振り回されて、もう大変。
 終局に至って全ての謎が解けるその瞬間、「そうだったのか!」と膝を打つこと請け合いです。本格ミステリファンは勿論、そうでもない貴方にも、カイジャリスイギョノスイギョウマツに首を傾げる各位にも断然お薦めいたします。おあとがよろしいようで。

(2003年7月15日)
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