名探偵・猫丸先輩が挑む、倉知淳の初長編
『過ぎ行く風はみどり色』

過ぎ行く風はみどり色 平穏な方城家を突如襲った奇怪な連続殺人。密室状況化での殴殺、交霊会中の刺殺、そして幽霊の手によるとしか思えない毒殺。立て続けに勃発する不可能犯罪に名探偵・猫丸先輩が挑む!

 ファンの皆様、たいへん長らくお待たせ致しました。倉知淳氏の初長編であり、『日曜の夜は出たくない』で活躍した名探偵・猫丸先輩が登場する、現在のところ唯一の長編が遂に文庫化されます。ジョン・ディクスン・カーばりに不可能犯罪が連続するところから、法月綸太郎氏に「倉知さんは、天然カーなのではありませんか?」と指摘を受けた、堂々たる本格探偵小説の巨編――でありながら、なぜかタイトルは思いきり和やかに『過ぎ行く風はみどり色』。このユニークなギャップは内容にも現れていて、怪奇色たっぷりの連続殺人が描かれていながら、語り口は極めてユーモラスかつハートフル。ふつう怪奇とユーモアは水と油なのですが、この物語では魔術のようにふたつの特色が互いを高め合い、滅多に味わえない不思議な読み心地を醸し出しています。

 また、初読時から7年の月日が経つにも関わらず、物覚えの良くない担当編集者でもしっかりと覚えていたくらい、本書の犯人像は強烈です。静かな感動で締め括られるラストも印象的。勿論本格ミステリとしても本書は優れた作品で、三重不可能殺人のトリックを猫丸先輩が次々暴いてゆく終章は圧巻、探偵小説の醍醐味を存分に味わえるでしょう。

 優れた本格ミステリを読んだ満足感と同時に、良質な物語を読んだ幸福感にも浸れる傑作。是非ともお読み逃しの無いようにお願い申し上げます。

(2003年6月15日)

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