『第三閲覧室』は紀田ミステリを代表する本格推理長編です。
誠和学園大学図書館の第三閲覧室は学長のコレクションである貴重本ばかりを収めているため、一般生徒はおろか教職員にも開放されない開かずの間と化していましたが、そこで防虫のための有毒ガスを吸い込んだ死体が発見される。事故というには不審な点が多すぎて、どうやら殺人らしいということになります。死の背景にあるのは大学内の複雑な人間関係か、それとも貴重本の山なのか。事件発生前後に目撃された謎の女、奇妙なダイイング・メッセージ……。容疑者としてマークされた人物の無実を確信する古書店主が、新聞記者たちと事件の調査に乗り出します。
本作は紀田氏お得意の古書ミステリでもありますが、その他にも大学図書館の運営や印刷・製本技術など、「本」に関連するさまざまな知識を詰め込んだ、碩学・紀田順一郎にしか書き得ないミステリに仕上がっています。本好きの方には実に興味深い小説と言えるでしょう。
そしてまた、本作は堂々たる本格ミステリです。私事で恐縮ですが、単行本版を読んでいた際、解決部に至って「こんなに企み抜かれた本格推理だったのか」と驚きました。つまり、寝転んで読んでいたら思わず起き上がってしまう本だった、ということです。読者の皆さんにはぜひ、この作品の真相を全て見抜けるかどうか、挑戦して戴きたいと思います。核を成すのは極めてシンプルなアイデアなのですが、気づくことができるでしょうか。
というわけで、もう一度申し上げます。『第三閲覧室』は紀田ミステリを代表する本格推理長編です。ぜひお読みください。