村上春樹訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』
が話題を呼んでいます。小社刊のサリンジャー関連書
をご紹介します。

『ライ麦畑の迷路を抜けて』

知られざるサリンジャー像と濃密な母娘関係に彩られた女流作家の半生

「きみがいなくなったとたん、世界はバランスを失ったような感じなんだ……そこにきみが座っていないのが、耐え難いほど悲しかった」
53歳ですでに世捨て人のように隠棲していたサリンジャーにこんなことを言わせた、18歳のジョイス。若き日の作家ジョイス・メイナードだ。

〈ニューヨークタイムズ・マガジン〉に載った「18歳の自叙伝」を読んだサリンジャーが彼女にファン・レターを送ったことから、二人のあいだに文通が始まる。イェール大学に入学したジョイスは、ほどなく大学を捨て彼のもとに向かい、二人は同棲するに至る。

「わたしは走って彼の腕に飛び込んだ。彼はわたしの髪をなでた。『待つのは永遠のようだったよ』
 こうして、彼は彼女にとって神のような存在になったのだが……。

 大学教師の父とその優秀な教え子であった母の間に生まれた娘ジョイスの特異な母娘関係。
「母はわたしがこれほど高名ですばらしい人物の関心をひいたことを、とても誇りに思っていた」

 ここに描き出されたサリンジャー像も、ひとつの真実であるはずです。ファン必読の一冊。

(2003年5月15日)
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