スリル溢れるユニークな謎解き小説
『捕虜収容所の死』

 時は1934年の7月。イタリアの第127捕虜収容所では、英国陸軍将校の手で脱走用のトンネルがひそかに掘り進められていました。ところが貫通まで6週間ほどとなった朝、その天井の一部が落ちているのを彼らは見つけます。おまけに、土砂の下からはスパイ疑惑の渦中にあった捕虜の死骸が発見されるのです。入口を開閉するには4人がかりの作業が必要。どうやって侵入したのか理解不能でした。ともあれイタリア軍に対して脱走手段を秘匿すべく、別のトンネルに遺体を移し、崩落事故を偽装する案が実行されるのですが……。
 第二次世界大戦下、連合軍の進攻が迫るイタリア。ファシストに囚われた英国軍人たちが捕虜収容所からの脱走をもくろむ。そんな緊迫した状況のもとで、謎めいた死亡事件が発生したら、どんなことになるでしょう? 捕虜側としては計画を隠そうと知恵を絞るでしょう。しかし紆余曲折の果てに、殺害犯人を捕らえないといけない羽目になったら?
 名手マイケル・ギルバートが1952年に刊行した本書『捕虜収容所の死』は、冒険小説そのものの舞台設定で巧妙な探偵小説を展開する、実にユニークな小説です。果たして脱走は成功するのか。そして、犯人捜しの顛末は。英国ミステリらしく抑えたユーモアに包まれた物語には、ここでは伏せますが、ほかにもいくつとなく趣向が用意されていて、読む者を飽きさせません。解説の森英俊氏の評言を紹介しておきましょう。

 スリラーと本格ミステリの要素が渾然一体となった、奇蹟のような作品……本書のように、最初から最後までスリラーと本格ミステリ的な部分とが絶妙なバランスを保っているものは、空前絶後といっていい。

 作者のマイケル・ギルバートは、90歳をこえた今もなお執筆活動をつづけている、現役最古参。夏には、本書とともに初期の代表的長編と呼び声の高い Smallbone Deceaced が、小学館から刊行される予定です。オールド・ファンも若いみなさんも、この英国ミステリの大家に、どうかご注目ください。

(2003年4月29日)
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