殺しても死なない殺人鬼といえば、『13日の金曜日』のジェイソンをはじめとして、スプラッタ・ホラーには欠かせない存在だが、ホッケー・マスクの怪人のかわりに、ゴジラが追いかけてきたとしたら? この冗談のようなアイデアを大まじめに長篇小説に仕立てた例がある。本書『凶獣リヴァイアサン』がそれだ。
本書に登場するのは、直立二足歩行して、口から火を吐く体長10・5メートルの怪獣。これがなんべん殺されても、そのたびに生き返ってくるのだから、まさにゴジラのジェイソン状態。しかもその怪獣が、悪の権化として、善を代表する身長2メートル半の北欧戦士と一騎打ちをするのだから、英雄神話風のファンタシーかと思うとさにあらず。問題の怪獣は遺伝子工学の産物で、舞台は現代。したがって、怪獣は銃弾とロケット弾を無数に浴び、何度となく高圧電流でふっとばされる。原書の裏表紙に「『ベーオウルフ』と『ジュラシック・パーク』の伝統の融合」と書いてあり、読む前はなんのこっちゃと思うのだが、まさにそのとおりの内容だ。
もちろん、テクノロジーの暴走を描いたフランケンシュタイン・テーマの作品として読んでも面白いし、わが国の大石英司氏が手がけているような正攻法のモンスター小説としても高い評価をあたえられる。要するに、本書は世にも珍しいSFホラー・ミリタリー・アクション・ヒロイック・ファンタシー(?)なのである。
作者のジェイムズ・バイロン・ハギンズは、アメリカの冒険小説作家。わが国には第5作『極北のハンター』と第4作『殺戮者カイン』が(この順で)紹介されているので、すでにおなじみの名前だろう。
邦訳の順番が逆になったが、本書はハギンズの第3作で、ターニング・ポイントとなった作品である。というのも、地方の小出版社から動物ファンタシーと冒険スリラーを出していた無名作家が、SF風味の本書でブレイクをはたし、つづく第4作以後をベストセラー・リストに送りこむようになったからだ。つまり、本書は文字どおりの出世作なのである。
本書の成功の秘訣は、宗教的な「窮極の善と悪の戦い」というテーマをディーン・クーンツ流のクロス・ジャンル・エンターテインメントに持ちこみ、家族愛や自己犠牲といった観念を崇高に謳いあげた点にあるだろう。ハギンズはあるインタビューでつぎのようにいっている―― 「ぼくは非常に古臭い名誉の掟に縛られているんだ……人は身のまわりの人間を保護し、身のまわりの人間を救うために生きるもの。ぼくの本の核心には、基本的にその信念があるんだよ」
(2003年4月15日)
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