巨匠鮎川哲也が生んだ安楽椅子探偵、
三番館のバーテン氏登場!

太鼓叩きはなぜ笑う  新宿の裏通りに事務所を構える「わたし」は元刑事。靴形平次の異名をとる先輩刑事に仕込まれた蹴りのテクニックは一級品ながら、時に干上がってしまう、しがない私立探偵である。
 その「わたし」に仕事を振ってくれる肥った弁護士は、クーラーをつけろ、嫁を貰え、掃除をしろ、と始終うるさい。女房と別れて以来独身生活を謳歌している「わたし」には大きなお世話なんであるが、旱天の慈雨さながら恵みをもたらしてくれる弁護士をあだやおろそかにはできない。
 弁護士が贔屓にしてくれる所以は、「わたし」が打率十割を誇っているからだ。大抵殺人事件がらみの依頼を見事にこなす秘訣は、何を隠そう、天下無敵の知恵袋の存在である。
 数寄屋橋近くの三番館ビル六階にある会員制バー〈三番館〉のバーテン、彼こそは得難い知恵袋。事件が解決するまでは強い酒を断つ習慣の「わたし」にバイオレットフィーズクイーンの色紙を供しながら、暗礁に乗り上げた「わたし」の調査譚に耳を傾ける。話が終わると、極めて控え目に質問を挟み、ひたすら謙遜して真相を告げるのだ。自信のほどは、事件解決の証に出してくれるギムレットに表れていよう。かくして「わたし」は肥った弁護士に大きな顔ができるのである。
 本シリーズ36編を『太鼓叩きはなぜ笑う』『サムソンの犯罪』『ブロンズの使者』『材木座の殺人』『クイーンの色紙』『モーツアルトの子守歌』の全6冊でお届けしています。
 鬼貫警部ものとはまた違う鮎哲ミステリの魅力を味わっていただける恰好のシリーズです。もちろん“本格”。どうぞお楽しみください。

(2003年4月15日/2004年5月10日)
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