ミステリ史上もっともクールなヒロイン
キャロル・オコンネル〈マロリー・シリーズ〉

 キャシー・マロリー。ニューヨーク市警巡査部長。主にコンピュータ・ハッキングで発揮される天才的な頭脳と、張り込みや尾行ができないほどの鮮烈な美貌の持ち主。父も母もなく、街角で盗みと逃走に明け暮れた幼年時代ゆえか、感情を顔に出すこともない。彼女には善も悪もない。ただ機械のように目的を遂行するだけ。

 里親である警察官ルイ・マーコヴィッツとその妻ヘレンの愛を一身に受け、親友でコンサルタントのチャールズ・バトラーや同僚のライカーの熱い友情を受けながらも、彼女はひとり、別の世界にいるかのように、冷たく美しく佇んでいる。まるで、氷を刻んだ天使像のように……。

 ミステリの世界に並み居る女性の探偵や捜査官の中でも、ひときわ異彩を放つのがこのマロリー。刑事なのに盗みやハッキングで手掛かりを得、捜査のためには同僚や上司を騙すことも、証人を恫喝することもいとわず、法を超えた行動を冷静にしつつ捜査を進めていくさまに、あなたは読みはじめるや驚くことでしょう。しかし、その行動が精密な論理に裏打ちされていることに、そして、そんな彼女が時に見せる内面の、優しさや傷つきやすさに触れたとき、あなたは共感せずにはいられなくなっていることでしょう。

 そんなマロリーの事件簿を御紹介します。


氷の天使 『氷の天使』

 裕福な老婦人ばかりを狙う連続殺人鬼。その捜査中、里親のマーコヴィッツが殺された。マロリーは上司の命令も待たず自ら捜査を続行。怪しげな霊媒師や自閉的なチェスの天才児、チャールズの従兄だった大魔術師の未亡人など、奇矯な人物たちの絡み合いに隠された真実は?

アマンダの影 『アマンダの影』

 マロリーが殺された? だが、被害者は彼女のブレザーを着た別人だった。その女、アマンダの部屋はくまなく掃除され、彼女自身のことを書いたらしい小説原稿だけが残されていた。目撃者は一匹の猫? 消去された名簿ファイルを復元したマロリーは高級コンドミニアムに潜入、容疑者たちに仮借ない捜査の手を伸ばす。

死のオブジェ 『死のオブジェ』

 画廊で殺されたアーティスト。その死体につけられたタイトルと、12年前にマーコヴィッツが捜査した猟奇殺人の関連は? マロリーの再捜査は容赦なく関係者の秘密を暴き、閉ざされた過去をこじ開ける。明るみに出るあまりにも哀しい真実。だが、市警を裏で牛耳る何者かの捜査妨害が……!

 3作とも、特異なキャラクターと綿密きわまりないプロットで、息もつかせぬ捜査と謎解きの物語に仕上がっています。
天使の帰郷

 そして、第4作『天使の帰郷』

 この物語の舞台はマロリーの故郷。殺人容疑で勾留されたマロリーを捜し、彼女の故郷に来たチャールズが見た、マロリーと同じ顔の天使像。カルト教団の教祖殺害犯を追いながら開かされるのは、マロリーが幼い頃に起きた忌まわしい事件の真相。警察捜査からウェスタンばりのアクションへ。大河小説としても読むことのできるマロリー・シリーズは、ここで一つ、大きな山場を迎えます。

(2003年2月15日)

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