ポール・ギャリコ(1897-1976)は、『スノー・グース』『雪のひとひら』のような文学作品から、『ジェニイ』などのファンタジイ、怪奇趣味横溢の本格もの『幽霊が多すぎる』や、ここでうっかり紹介できないほどトリッキーな『マチルダ――ボクシング・カンガルーの冒険』のようなミステリ、さらにはノンフィクションまでと、幅広く、かつ数多く、作品を残しています。
もっとも、その「幅の広さ」「数の多さ」ゆえに、埋もれてしまっている作品も多いようす。そこで、編集部であれこれ探してみたところ、発掘されたのがこの『われらが英雄スクラッフィ』。かつて、故・矢川澄子女史がエッセイで取り上げたものの翻訳にまではいたらず、サルの登場する小説だとしか知られていなかったようです。
舞台は第二次大戦下の英領ジブラルタル。この地に伝わる「サルがいなくなったら英国人もいなくなる」という奇妙な言い伝えゆえに、サルの世話をしているイギリス軍の青年将校ティムと、群いちばんの暴れん坊スクラッフィをめぐる冒険の数々。
本文庫既刊の2点をお楽しみいただいた方にはもちろん、かつて「ハリスおばさん」や「ハイラム・ホリデイ氏」のファンだった人たちにも、心楽しいひとときを過ごしていただけること請け合いです。なお解説は、やはりギャリコファンの豊崎由美氏。