出るぞ、出るぞと言いつづけてきた『ロンド』がついに出ました。木口木版画家、柄澤齊のミステリ・デビュー作です。
ただし、「ああ、デビュー作ね……」とパスされたりすると、それはあなたの読書史上、大いなる損失ということになりますので、御注意ください。
版画家・柄澤齊、ご存じない方でも、きっとその作品はご覧になっているはずです。例えば、倉橋由美子『大人のための残酷童話』『決定版三島由紀夫全集』『堀田善衛全集』等の装丁、装画が柄澤齊作品なのです。
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実物を見たことのある人間が数えるほどしかいない、写真すら残っていない幻の絵画『ロンド』。20年前、3日間の展示だけで絵画大賞に選出されたものの、画家は受賞を拒否し、その直後に交通事故死。以後、『ロンド』は所在不明となっていた。その画家の回顧展を企画している美術館学芸員に「ロンド」の名を冠した未知の画家の個展案内状が届く。 会場に足を運んだ彼が目にしたのは、有名な絵画作品そのままにしたてあげられた死体だった。『ロンド』とこの個展の関係は? 謎の個展は続く。Part 2、 Part 3……。
死体を使った奇怪な個展を開くこの画家はいったい誰なのか? なぜ学芸員だけに案内状が届くのか? 『ロンド』とはいかなる作品なのか……?
圧倒的な筆力と構成力で描き上げた、繊細かつ重厚な作品世界。超一級の小説、超一級のミステリです。1ページ目から最終ページ最終行まで、たっぷり詰まった、読む喜び、文字で描かれた絵を読む喜び、ミステリの喜び、絵画の魔に憑かれる喜び(?)をご堪能ください。
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何度か顔を出す子猫が可愛い、などというミニ情報と、この作品には著者のちょっとした「いたずら心」も、実は隠されているのです、という意味ありげな言葉を添えておきましょう。
(2002年11月15日/2006年9月5日)
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