《安楽椅子》の名探偵登場
都筑道夫『退職刑事1〜6』

 《安楽椅子》の名探偵は、古今東西いろいろな作品で活躍しています。創元推理文庫を見渡してみても、アイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会』、バロネス・オルツィ『隅の老人の事件簿』、アガサ・クリスティ『ミス・マープルと十三の謎』、M・P・シール『プリンス・ザレスキーの事件簿』、ジェームズ・ヤッフェ『ママのクリスマス』、青井夏海『スタジアム 虹の事件簿』、芦原すなお『ミミズクとオリーブ』、阿刀田高『Aサイズ殺人事件』、鮎川哲也『太鼓叩きはなぜ笑う』、有栖川有栖『山伏地蔵坊の放浪』、黒崎緑『しゃべくり探偵』、天藤真『遠きに目ありて』……と枚挙にいとまがないくらいです。
退職刑事1  わけても『退職刑事』は、《安楽椅子探偵小説》定番中の定番といっても過言ではないでしょう。都筑氏自身の造語「論理のアクロバット」を実践、みごとに着地させた作品の出来映えもさることながら、制約の多いミステリというジャンルにあってなお縛りをきつくした設定に挑む作者の自負を感じ取っていただければと思います。

 老いては騏○も駑馬に劣るとか申しますが、どうしてどうして。退職刑事の親父さんは昔とった杵柄にいぶし銀の細工を施し、すでに耆宿の域ともいえましょう。捜査一課の現職刑事である息子、五郎は、時に相談を持ちかけ、時に口を滑らして、現在捜査している事件の話を始めます。ここかしこに突っ込みを入れながら聞いていた父親は、意表を衝いた着眼から事件の様相を一変させ、真相を提示してみせるのでした。
 記念すべき第一作で、五郎は「わかりました。やっぱり、お父さんにはかなわない。降参ですよ」と頭を下げながら、内心「おだてておけば、おやじ、今後も役に立ちそうだ」と、してやったりの様子ですが、その後も親父さんの名推理に助けられること数知れず。
 硬骨の刑事だった親父さんにとっても、現在進行形の捜査話はこの上ない老化防止の妙薬なのかもしれません。高齢社会の前途に一条の光を投げかける可能性もないとはいえない(?)名シリーズなのです。

(2002年9月15日/2004年5月10日)
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