ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
『ダークホルムの闇の君』
解説[部分] 妹尾ゆふ子

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『ダークホルムの闇の君』
浅羽莢子訳/創元推理文庫
 かのブームが巻き起こってからというもの、ファンタジー愛好家諸氏は、こんな問いを一度や二度は受けているのではないだろうか。
「ハリポタみたいな本、ない?」
 答える側にとってみれば、ハリポタと同じくらい、あるいはそれ以上おもしろいと感じる本はいくらでも挙げられても、ハリポタ「みたいな」本となると、難しい。
 おもしろさの質や方向性が合致する作品を探すのが、困難なのだ。だからこその、ブームなのである。
 よしんばそんな本があったとしても、それは二番煎じとしてしか楽しみ得ない。楽しい読書体験の再現を求める気もちはわかる。だがその望みは、本来の魅力をも消耗してしまう――あたかも噛み過ぎて味がなくなったチューインガムのように。
 むしろ、「みたいではない」本を探し、ファンタジーの世界をひろげてほしい。

ダークホルムの闇の君 「ジョーンズの本みたいなの、ない?」
 ダイアナ・ウィン・ジョーンズは、こう訊かれたとき、同類項にあてはまる作品を指摘しかねるものを書く、いわばワン・アンド・オンリーの作家である。
 彼女が描く登場人物は皆、ひどく個性的である。かれらは誰になんと言われようと、自分の信じる道を進む。それが、ひとりやふたりではなく、何人も登場するのだ。当然、物語はごちゃごちゃにひっかきまわされる。
 本作『ダークホルムの闇の君』で、主人公のダークをはじめとする彼の家族は、立ちはだかる困難を退けるために力をあわせる心づもりがある。だが、かれらを阻むのは、次々と発生する事件以上に、かれらひとりひとりの強烈な個性でもあるのだ。

(2002年9月15日)
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