ドラキュラ紀元1959年、闇の治世が幕を降ろす?
キム・ニューマン『ドラキュラ崩御』

ヴァン・ヘルシング教授は敗れ、吸血鬼ドラキュラは英国に君臨した……。ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』の結末を大胆に改めたところからはじまった、もう一つの歴史を描く改変世界ホラー《ドラキュラ紀元》シリーズ。その第3作『ドラキュラ崩御』が、いよいよ登場です。

ドラキュラ紀元  第1作『ドラキュラ紀元』は1888年の物語。ドラキュラ統治下のロンドンに、吸血鬼の娼婦ばかりを襲う連続殺人犯〈銀ナイフ〉が跳梁する。シャーロック・ホームズの兄にして闇内閣のメンバー、マイクロフトは、諜報員ボウルガードに捜査を命じる。一方、ドラキュラとは血統を異にする、永遠に16歳の美少女ジュヌヴィエーヴもまた、事件にかかわっていくのだが……。
 切り裂きジャック事件を踏まえながら、もうひとつの世紀末ロンドンに、ホラー映画や小説に登場する吸血鬼たち、ホームズとそのライヴァルの名探偵たち、ハイド氏やフー・マンチューのような怪人たちが、惜しげもなく現れる。オリジナルの直後の話だけあってストーリーのつながりも強く、豪華絢爛歴史怪奇大浪漫の物語には、もうひたるほかありません。

ドラキュラ戦記  続く第2作『ドラキュラ戦記』は1919年、うってかわって第一次大戦を描く冒険大作。イギリスを追放されたドラキュラはドイツに身を寄せ、レッド・バロン率いる戦闘航空団で報復開始。敵地に踏みこんだウィンスロップ中尉はその恐るべき正体を知る。一方、レッド・バロンを訪れたエドガー・アラン・ポオに託された、ドイツ皇帝の命とは?
 空中戦に敵地突破、クライマックスではドラキュラ自ら戦場へ、というサービス満点(過剰?)の大活劇。今回のヒロインは、前作では脇にまわったジャーナリストのケイト・リード。冒険に加えウィンスロップのロマンスもあり、さらに読みどころはたくさん。ホラー・ファンには、アメリカの巨匠ポオとドイツ幻想文学の凶星エーヴェルスの邂逅に胸が騒ぐことでしょう。

 さて、第3作『ドラキュラ崩御』は……
 1959年、ローマ。吸血鬼への転化を拒み余命いくばくもない老齢のボウルガード。彼をただ見守るばかりのジュヌヴィエーヴ。二人のもとに現れたのは、密命を帯びた闇内閣の諜報員、ボンド中佐だった。一方、ケイトは吸血鬼ばかりを狙う刺客〈深紅の処刑人〉の凶行を目撃。連続吸血鬼暗殺事件に巻き込まれながら、謎めいたイタリア男マルチェロと恋に落ちて……。
 華やかなイタリア映画界(もちろんホラー映画も!)を描く一方で、ニューマンが愛してやまぬヒーロー、007へのオマージュでもあるこの作品、いったいどんな意外な出演者がひそんでいるか、そして〈深紅の処刑人〉の魔手はドラキュラに及ぶのか?
 華やかに虚実入り乱れるニューマン・ワールドに、どっぷりひたってください。


(2001年11月30日)
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