少女と魔法、愛と成長のファンタジイ!
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『九年目の魔法』

九年目の魔法  《ハリー・ポッター》人気でファンタジイ・ブーム再来かと騒がれている昨今。なにをいまさらとは思うまい。とにかく素晴らしい作家と作品が再認識されればよいのだ。ハリポタ・ブームがそのきっかけになりさえすればいいではないか。

 などとかつての編集担当者は気張っておるのですが、事実この『九年目の魔法』、7年前の刊行時にはかすりもしなかったのが、ここのところ版を重ねて好調な売れ行き。おまけにこの作家の別な作品(うちの本ではありませんが)、あのスタジオ・ジプリがアニメ化するとか。

 やっと来たか。ダイアナ・ウィン・ジョーンズが世に認められるチャンスが。しかもだ、『九年目の魔法』はファンタジイ版『あしながおじさん』とも言うべき著者の代表作。とにかく、まだの方はぜひご一読ください。

 作品については、三村美衣さんの的確な解説があるので少しく引用させていただく。

 ――「何かとてつもない秘密の存在を予感させる冒頭と、謎と波乱に満ちた展開。現代のイギリスを舞台に、少女と魔法の九年間におよぶ戦いを描いた物語は、読みはじめたが最後、ぜったいに途中でやめられない。パズル小説を読み解く知的興奮とサスペンス小説の緊迫感が味わえ、さらには少女小説を読むようなノスタルジックな喜びにも耽溺できる。物語を読む悦楽が凝縮された、とってもお得な一冊だ。おまけに、読み終わるや、もう一度最初から読みかえしたくなる不思議な魔力まで持ちあわせている。わたしはもう五回読みかえしたけれど、いまもこの解説を書きながら、本文を参照するたびにまた読みふけってしまう。最初の興奮が、いつしか静かな愛着に変わる。そういった幸せな読書ができて五倍は得する逸品だ。

 大学の休暇で家に戻ったポーリィは、自分の記憶が奇妙な二重性を帯びていることに気づいて愕然とする。たしかに読んだはずの本の内容がちがっていたり、見慣れていたはずの写真の印象が、記憶と妙にずれていたり。学校のことも家族のことも、友達やボーイフレンドのことも、みんな本当にあったことのはずなのに……。思い出の向こうに見え隠れする、別の記憶。いったいどうして現実に対応しない記憶をもつようになってしまったのだろう。そして、どちらが本当の自分の記憶なのだろう?
 真相を求めて、ポーリィは幼い頃の出来事をもう一度順番にたどりはじめる。
 九年前、十歳の頃。ハロウィンの日に迷いこんでしまった、知らない女の人のお葬式。すべてはそこからはじまったのだ。そしてお葬式で出会った男の人、チェロ奏者のリンさん。もうひとつの記憶のほうには、いつもこのリンさんが登場する……。
 あれは本当にあったことなのだろうか。それとも、すべては空想が生みだした幻影なのだろうか。この記憶の先には何が待ちうけているのだろうか。
 こうして、ポーリイの失われた九年の時を求める回想がはじまる。」――

わたしが幽霊だった時  ダイアナ・ウィン・ジョーンズは1934年ロンドン生まれ。13歳のときから小説を書きはじめたが、実際の作家デビューは40歳になろうかというころ。すでに3人の子供がおり、彼らの成長に合わせて物語を作ってきたという話も伝わっている。

「現代の英国児童文学界で、もっとも独創性と意外性にとんだ作家」と評されるジョーンズの、いまひとつの代表作が『わたしが幽霊だった時』だ。こちらはファンタジイ版『若草物語』。出てくる姉妹がみんなキレていて、ほろ苦くて、心に沁みる物語。

 こちらも創元推理文庫で読めますので、ぜひどうぞ。

(2001年10月)
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