世界中を魅了した、20世紀を代表する英国文学が登場
同名映画(ニコラス・ケイジ、ペネロペ・クルス主演)も公開
『コレリ大尉のマンドリン』

コレリ大尉のマンドリン  物語の舞台は第二次世界大戦時のギリシア・ケファロニア島。いったいどこ? と思われるのも無理はありません。この島、じつは『コレリ』本の人気で突如、観光客が押し寄せるようになるまでは、ヨーロッパでもよく知られていなかったようです。むしろ、歴史からも忘れ去られてしまうような場所。戦争はそんな島をも容赦なく襲い、多くの悲劇を生むことになりますが、一組の男女、コレリ大尉とギリシア娘に運命的な出会いをもたらしたのも、同じ戦争のなせるわざでした。戦争がなかったら出会っていなかったふたり。そして戦争によって引きさかれようとするふたり。敵国どうしの、ずいぶん複雑な状況下でのラブストーリー、これが本筋です。

 戦争によってすっかり変わってしまったケファロニア島。村でただひとりの医師イアンニスとその17歳になる美しい娘ペラギア、彼女と婚約するハンサムな漁師マンドラス。戦争はまず、愛国心に燃えるマンドラスを戦地に駆り立てます。100通におよぶ手紙をかいて彼を待つペラギア。ところが返事は1通もありません。待つことに耐えきれなくなり、ついに彼女はマンドラスの心がはなれたと結論づけ、別れのことばをしたためます。

 ところがある日、見知らぬ男がペラギアの家のなかにいました。浮浪者のようなシラミだらけの老人が、彼女が恋いこがれ、待っていたはずの美しかったマンドラスとは……。彼の言葉にペラギアはとてつもなくショックをうけ、完全に心が離れてしまいます。マンドラスはマンドラスで、彼女が自分を覚えていてくれなかったことに、体じゅうの力がぬけていくのを感じていました。ギリシアのためじゃない、ペラキアのために戦ったのに、と。ふたりは決定的にすれちがってしまうのです。

 コレリ大尉をはじめとするイタリア軍が島に上陸するのは、そんな頃でした。誇り高いケファロニア島民は、大胆にも「とっととうせろ!」とイタリア兵を追い返そうとしますが、やがて判明した彼らの底抜けの明るさ、人なつっこさには負け、コレリが奏でるマンドリンの音色に聞き入り、いっしょに“夏休み”のような日々を過ごします。が、それもつかの間のことでした。

 イタリア軍の後には、もっと冷酷で狼藉者のドイツ軍がやってきて、さらには内戦によってギリシア人同士が傷つけ合い、その後は大地震でなにもかも破壊され……という具合に、物語はなんと1990年代なかばまでつづきます。大尉とペラギア、思いもよらぬかたちでふたりを結びつけるのはやはりあのマンドリンの“アントニア”なのでしょうか?

 本書を原作とした映画は、この秋、全国松竹・東急系にてロードショー。監督は『恋に落ちたシェイクスピア』のジョン・マッデン、コレリ大尉役にニコラス・ケイジ、ペラギア役にペネロペ・クルス、マンドラス役にクリスチャン・ベール、と豪華な顔ぶれです。こちらもお楽しみに!


●著者略歴:1954年生まれ。英国在住。1993年、文芸誌「グランタ」で、カズオ・イシグロ、ローレンス・ノーフォーク(『ジョン・ランプリエールの辞書』)などとならび、注目の若手英国作家に選出される。長編4作目にあたる本書でコモンウェルス作家賞受賞。短編に「ラベル」(柴田元幸編訳『夜の姉妹団』朝日文庫)がある。


 映画についての詳細、予告編などは以下のサイトでご覧になれます。

●配給元:ブエナ ビスタ インターナショナル(ジャパン)
●イギリスの公式サイト(英語)
●アメリカの公式サイト(英語)

(2001年7月15日)
本の話題のトップへトップページへもどる