かつて創元推理文庫からは7冊の〈コナン〉シリーズが刊行されていました。ですが、これは後代の手が大幅に加わった原典と、ほかの作家による模作が入り交じった編集であり、さらにランサー・ブックス版全12巻のうち7巻までで中断したものでした。今回お届けする〈新訂版コナン全集〉は、それとはまったく異なるものになります。本邦初紹介となる、純正ハワード印の〈コナン〉を存分にお楽しみください。
刊行のことば
中 村 融
2006年は、ロバート・E・ハワードの生誕100周年、没後70周年にあたる。そういう節目の年に〈新訂版コナン全集〉を世に送りだすことになったのは、なにかの縁という気がする。
ハワードが創造した蛮人コナンというキャラクターは、ヒロイック・ファンタシーの代名詞的存在だ。エキゾチックな超古代世界を舞台に、長剣をひっさげた野生児が、邪悪な魔術師や原始の怪物と戦う物語は、1930年代に一世を風靡し、ヒロイック・ファンタシーというジャンル成立の原動力となった。この蛮人戦士の物語は、1960年代に華々しく復活し、一大ベストセラーを記録するほか、コミックスや映画の世界にも進出した。ハワード以外の作家による続編もつぎつぎと書かれ、たとえば〈時の車輪〉シリーズで絶大な人気を誇るロバート・ジョーダンは、〈コナン〉シリーズの模作で名をあげた人である。もちろん、影響力も絶大で、わが国の〈グイン・サーガ〉(栗本薫)をはじめとして、その後継者は枚挙にいとまがない。
もっとも、コナンというキャラクターが独立して世に広まったおかげで、ハワード自身の原典の影が薄くなった感は否めない。そこで今回の新訂版では、日本独自の編集によりハワードの原典に忠実な全集をめざすことにした。すなわち、ハワード自身が完成させた21篇に関しては雑誌掲載前のタイプ原稿から翻訳を起こし、未完成の5篇に関しては、梗概や未完の草稿のまま翻訳を載せることにしたのだ。重ねて強調しておくが、これらは後代の手がいっさい加わっていないハワード・オリジナル・コナンである。
このほか本邦初訳となる詩や、シリーズに関する覚え書きをすべて収録。さらには同時代の証言として、H・P・ラヴクラフト、E・ホフマン・プライスの回想記、ハワードの父親I・M・ハワードの手紙を収録した。
■ 著者紹介 ロバート・E・ハワード
Robert E(rvin). Howard
1906年1月22日、アメリカ合衆国テキサス州生まれ。1925年、19歳で〈ウィアード・テールズ〉誌よりデビュー。H・P・ラヴクラフトらと親交が深く、クトゥルー神話ものも多く発表、それらは『黒の碑』にまとめられている。1932年より同誌で開始した〈コナン〉シリーズが代表作となる。1936年6月11日、30歳でピストル自殺。生涯に発表した作品数は400編におよぶ。
なお海外のハワード研究サイトには下記のようなものがある。
The Barbarian Keep http://www.barbariankeep.com/
The Works of Robert E. Howard http://howardworks.iwarp.com/howard.htm
創元推理文庫・新訂版コナン全集 目次
【参考資料「創元推理文庫・旧版 目次」はこちらです】
【参考資料「ハヤカワ文庫SF版 目次」はこちらです】
訳題はすべて仮題。*を付したものは創元推理文庫に初収録のもの。
第1巻『黒い海岸の女王』
- 「キンメリア」(詩)Cimmeria (verse) *本邦初訳
- 「氷神の娘」The Frost-Giant's Daughter
- 「象の塔」The Tower of the Elephant
- 「石棺のなかの神」The God in the Bowl
- 「館のうちの凶漢たち」Rogues in the House
- 「黒い海岸の女王」Queen of the Black Coast
- 「消え失せた女たちの谷」The Vale of the Lost Women
〈資料篇〉
- 「死の広間(梗概)」The Hall of the Dead (synopsis) *新訳
- 「ネルガルの手(断片)」The Hand of Nergal (fragment)
- 「闇のなかの怪(梗概)」The Snout in the Dark (synopsis) *新訳
- 「闇のなかの怪(草稿)」The Snout in the Dark (draft)
- 「R・E・ハワードからP・S・ミラーへの手紙」Letter to P. Schyler Miller
- 「ハイボリア時代」The Hyborian Age *後半のみ新訳
第2巻『魔女誕生』
- 「黒い怪獣」Black Colossus
- 「月下の影」Shadow in the Moonlight
- 「魔女誕生」A Witch Sall Be Born
- 「ザムボウラの影」Shadow in Zamboula
- 「鋼鉄の悪魔」The Devil in Iron
〈資料篇〉
- 「ロバート・アーヴィン・ハワード――ある追想」Robert Ervin Howard: A Memoriam H・P・ラヴクラフト *新訳
第3巻『黒い予言者』
- 「黒い予言者」The People of the Black Circle
- 「忍びよる影」The Slithering Shadow
- 「黒魔の泉」The Pool of the Black One
〈資料篇〉
- 「トンバルクの太鼓(梗概)」Drums of Tombulk (synopsis) *新訳
- 「トンバルクの太鼓(草稿)」Drums of Tombulk (draft)
第4巻『黒河を越えて』
- 「赤い釘」Red Nails
- 「古代王国の秘宝」Jewels of Gwahlur
- 「黒河を越えて」Beyond the Black River
〈資料篇〉
- 「ロバート・アーヴィン・ハワード」Robert Ervin Howard E・ホフマン・プライス *本邦初訳
第5巻『真紅の城砦』
- 「黒い異邦人」The Black Stranger *新訳
- 「不死鳥の剣」The Phoenix on the Sword *新訳
- 「真紅の城砦」The Scarlet Citadel *新訳
〈資料篇〉
- 「西方辺境地帯に関する覚え書き」Untitled Notes *本邦初訳
- 「辺境の狼たち」Wolves Beyond the Border (draft) *本邦初訳
- 「ハイボリア時代の諸民族に関する覚え書き」Notes on Various People of the Hyborian Age *本邦初訳
第6巻『龍の刻』
- 「龍の刻」The Hour of the Dragon *新訳
〈資料篇〉
- 「I・M・ハワード博士からH・P・ラヴクラフトへの手紙」Letter, Dr. I. M. Howard to H. P. Lovecraft *本邦初訳
- 「I・M・ハワード博士からE・ホフマン・プライスへの手紙」 Letter, Dr. I. M. Howard to E. Hoffman Price *本邦初訳
【参考資料】 創元推理文庫・旧版 目次
(ランサー・ブックス版を、1971年から1974年にかけて邦訳刊行したもの)
※各巻にディ・キャンプの序文がついている。ただし第6巻のみカーターによる序文。
第1巻『コナンと髑髏の都』(Conan, 1967)
- 「洞窟の怪異」The Thing in the Crypt
L・スプレイグ・ディ・キャンプ&リン・カーターによる模作
- 「象の塔」The Tower of the Elephant
- 「死の広間」The Hall of the Dead
L・スプレイグ・ディ・キャンプが改作
- 「石棺のなかの神」The God in the Bowl
L・スプレイグ・ディ・キャンプが改稿
- 「館のうちの凶漢たち」Rogues in the House
- 「ネルガルの手」The Hand of Nergal
リン・カーターが改作
- 「髑髏の都」The City of Skulls
L・スプレイグ・ディ・キャンプ&リン・カーターによる模作
- 「R・E・ハワードからP・S・ミラーへの手紙」Howard's Letter to P. S. Miller
- 「ハイボリア時代 (1) 」The Hyborian Age (Part 1)
第2巻『コナンと石碑の呪い』(Conan of Cimmeria, 1969)
- 「石碑の呪い」The Curse of the Monolith
L・スプレイグ・ディ・キャンプ&リン・カーターによる模作
- 「血ぬられた神像」The Bloodstained God
シリーズ外の作品をディ・キャンプが改作
- 「氷神の娘」The Frost Giant's Daughter
L・スプレイグ・ディ・キャンプが編集
- 「氷の妖虫の巣」The Lair of the Ice Worm
L・スプレイグ・ディ・キャンプ&リン・カーターによる模作
- 「黒い海岸の女王」Queen of the Black Coast
- 「消え失せた女たちの谷」The Vale of the Lost Women
- 「恐怖の砦」The Castle of Terror
L・スプレイグ・ディ・キャンプ&リン・カーターによる模作
- 「闇のなかの怪」The Snout in the Dark
L・スプレイグ・ディ・キャンプ&リン・カーターが改作
第3巻『コナンと荒鷲の道』(Conan the Freebooter, 1968)
- 「セムの禿鷹」Hawks Over Shem
シリーズ外の作品をL・スプレイグ・ディ・キャンプが改作
- 「黒い怪獣」Black Colossus
- 「月下の影」Shadows in the Moonlight
- 「荒鷲の道」The Road of the Eagles
シリーズ外の作品をL・スプレイグ・ディ・キャンプが改作
- 「魔女誕生」A Witch Shall Be Born
第4巻『コナンと焔の短剣』(Conan the Wanderer, 1968)
- 「黒い涙」Black Tears
L・スプレイグ・ディ・キャンプ&リン・カーターの模作
- 「ザムボウラの影」Shadows in Zamboula
- 「鋼鉄の悪魔」The Devil in Iron
- 「焔の短剣」The Flame Knife
シリーズ外の作品をL・スプレイグ・ディ・キャンプが改作
第5巻『コナンと黒い予言者』(Conan the Adventure, 1966)
- 「黒い予言者」The People of the Black Circle
- 「忍びよる影」The Slithering Shadow
- 「トンバルクの太鼓」Drums of Tombalku
L・スプレイグ・ディ・キャンプが改作
- 「黒魔の泉」The Pool of the Black One
第6巻『コナンと毒蛇の王冠』(Conan the Buccaneer, 1971)
- 「コナンと毒蛇の王冠」Conan the Buccaneer
L・スプレイグ・ディ・キャンプ&リン・カーターによる模作
第7巻『コナンと古代王国の秘宝』(Conan the Warrior, 1967)
- 「血の爪」Red Nails
- 「古代王国の秘宝」Jewels of Gwahlur
- 「黒河を越えて」Beyond the Black River
【参考資料】 ハヤカワ文庫SF版 目次
(ノーム・プレス版をもとに、1970年から1973年にかけて早川書房より刊行されたもの)
※ハワードの完成稿「消え失せた女たちの谷」が未収録。
第1巻『征服王コナン』(Conan the Conqueror, 1950)
長篇 The Hour of the Dragon の単行本化
第2巻『風雲児コナン』(The Sword of Conan, 1952 を再編集したもの)
- 「魔界の住人」The People of the Black Circle
- 「幻影の都」The Slithering Shadow
- 「黒魔の泉」The Pool of the Black One
第3巻『冒険者コナン』(The Coming of Conan, 1953 を再編集したもの)
- 「ハワード、〈コナン〉を語る」Letter from R.E.Howard to P. S. Miller
- 「ハイボリア時代(第1部)」The Hyborian Age (Part 1)
- 「巨象の塔」The Tower of the Elephant
- 「円形の棺」The God in the Bowl
L・スプレイグ・ディ・キャンプが改稿
- 「群盗の都市」Rogues in the House
- 「氷神の娘」The Frost Giant's Daughter
L・スプレイグ・ディ・キャンプが改稿
- 「黒海湾の女王」Queen of the Black Coast
第4巻『不死鳥コナン』(King Conan, 1953 と The Sword of Conan, 1952 を再編集したもの)
- 「紅い封土」Red Nails
- 「ワルールの秘宝」Jewels of Gwahlur
- 「暗黒の河を超えて」Beyond the Black River
第5巻『狂戦士コナン』(Conan the Barbarian, 1954)
- 「砂漠の魔王」Black Colosus
- 「月下の怪」Shadows in the Moonlight
- 「魔女の誕生」A Witch Shall Be Born
- 「ザンボーラの影」Shadows in Zamboula
- 「鋼鉄の悪魔」The Devil in Iron
第6巻『大帝王コナン』(King Conan, 1953 を再編集したもの)
- 「トラニコスの宝」The Treasure of Tranicos
L・スプレイグ・ディ・キャンプが改稿
- 「不死鳥の剣」The Phoenix on the Sword
- 「真紅の城砦」The Scarlet Citadel
- 「ハイボリア時代(第2部)」The Hyborian Age (Part 2)
別巻1『復讐鬼コナン』(The Return of Conan, 1957)
長篇 L・スプレイグ・ディ・キャンプ&ビョルン・ニューベリイによる模作
別巻2『荒獅子コナン』(Tales of Conan,1955 を再編集したもの)
- 「血塗られた邪神」The Bloodstained God
シリーズ外の作品をL・スプレイグ・ディ・キャンプが改作
- 「狂瀾の都」Hawks Over Shem 同上
- 「荒鷲の道」The Road of the Eagles 同上
- 「火炎剣の魔境」The Flame Knife 同上
(2006年9月8日/2009年2月18日)
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