近年、イギリスで発表されている警察小説には、ひとつの傾向があります。それはロンドンをはじめとする都市ではなく、地方を舞台とする作品が増えてきたこと。なかには、架空の地方を丸ごと創造してしまう作家もいます。
そうした作品はどれも、風物の描写にじっくり筆を費やすのが特徴です。人口がそれほど密集していないうえに、管轄となる土地の面積は広く、その地方特有の変化に富んだそれらの環境は、しばしば都会では見られないタイプの犯罪を生んだり、ありふれた事件に意外な展開を与えたりします。それが、これほど多くの作家が地方を舞台に選ぶ理由のひとつであるのでしょう。
さて、そんな地方を舞台にした警察小説シリーズのなかでも、本国で確固たる人気を持っているのが、『黒い犬』に始まるスティーヴン・ブースの《ベン・クーパー&ダイアン・フライ》シリーズです。
イングランド中央に位置するイギリス最初の国立公園、ピーク・ディストリクトを擁するピーク地方を舞台にした本シリーズは、衝突と協力をくり返す男女ふたりの若手刑事の好対照な姿もさることながら、地方ならではの環境と人間関係が生み出す事件の姿に特色があります。
今回ご紹介する第2作『死と踊る乙女』にも、第1作と同じく、上記の特徴がそのまま当てはまります。今回事件が起こるのは、太古の人々が遺したストーンサークル(環状列石)や巨石がいくつもそびえるリンガム荒野。〈九人の乙女岩〉と呼ばれる遺跡で、惨殺された女性が発見されます。その死体は、〈乙女岩〉の伝説にあるように、まるで踊っているかのような姿勢を取らされていたのでした……。
なんとも酸鼻な発端を経て、刑事たちの執拗な捜査が始まります。地元出身であることを活かし、聞き込みをするクーパー刑事と、昇進したばかりで意欲に燃えるダイアン臨時部長刑事。相変わらずそりの合わないふたりは、はたして荒野で起きた寒々しい事件に、光明をもたらすことができるのでしょうか?