逢坂剛が選んだベスト5 創元推理文庫

  1. 蘭の肉体/ハドリー・チェイス
  2. 最悪のとき/W・P・マッギヴァーン
  3. ハンマーを持つ人狼/ホイット・マスタスン
  4. コルト拳銃の謎/フランク・グルーバー
  5. 深夜特捜隊/デビッド・グーディス

 既刊千数百点に及ぶ、創元推理文庫の中からわずか5作品を選べというのは、無理難題のきわみである。50作なら、さして苦労もせずに選び出せるのだが、そこから一割に絞るとなると、まさに至難のわざといわなければならない。ここは一つ肚を決めて、だれもが挙げそうな定番をあえてはずし、珠玉の隠れた名作を中心に選ぶことにする。したがって、ハメットにもチャンドラーにも、そしてロス・マクにも今回は、遠慮してもらう。

1.蘭の肉体 わたしは、人も知るハドリー・チェイス・フリークだが、中でもこの作品は出色のスリラーである。ここに出てくる、兄弟の殺し屋の恐ろしさを見よ! チェイスは、どの作品を読んでも失望することのない、真のプロフェッショナルだ。

2.最悪のとき 『裏切りの日日』に始まる、わたしの警察小説の原点はW・P・マッギヴァーンにある、といっても過言ではない。 ハードボイルドの底に、ほどよく流れるセンチメンタリズムは、その後のネオ・ハードボイルドにはないものだ。

3.ハンマーを持つ人狼 これも警察小説の佳作。ひところ人気のあった、ドロシー・ユーナックの女刑事クリスティ・オパラよりも、一足先に生まれた女刑事ものである。シリーズ作品でないのが残念だが、ホイット・マスタスンの代表作の一つといってよい。

4.コルト拳銃の謎 フランク・グルーバーは、西部小説の雄としても知られるが、この作品はその風情を今に伝える珍品。主人公のジョニー・フレッチャー、サム・クラッグの二人のやりとりは抱腹絶倒、推理小説史上まれにみる凸凹コンビである。

5.深夜特捜隊 デビッド・グーディスは、F・トリュフォー監督の『ピアニストを撃て』の原作者としても、よく知られる。本作は、警察小説の系統に属する歯切れのいい佳作で、マッギヴァーンの諸作とも一脈通じる味を持っている。

 以上、中には長い間版の途絶えたものもあるが、ぜひご一読いただきたい。わたしの作品がお好きな読者なら、きっと楽しんでいただけるに違いない、と確信している。

(1999/4/1) 

↑このページのトップへ
著名作家10人が選んだ創元推理文庫・創元SF文庫ベスト5のトップへ
有栖川有栖|逢坂剛|笠井潔菊地秀行北村薫京極夏彦小池真理子椎名誠田中芳樹宮部みゆき江戸川乱歩