――道尾さんは、憧れている作家はいらっしゃいますか? 純粋に好きな作家でもけっこうですが。
道尾 断トツなのは久世光彦さんです。あとは玄侑宗久さん、赤瀬川原平(尾辻克彦)さんとか。久世さんで好きなのは『聖なる春』ですね。『有栖川の朝』など、基本的には全部好きですが。日本語がきれいな小説が好きなんです。ミステリで憧れの作家となるとたくさんいますが、「一番」と訊かれれば横溝正史になると思います。あの語り口は誰にも真似できない。
――道尾さんは仏像やお寺にもご興味がおありだとか。
道尾 僕は世界が好きというか、現実が好きなんですよ。大学生のときに興味を持って勉強したのが仏像と植物と動物についてだったんですが、例えば植物なんかは雑草や雑木の種類とか生態を知っていると、日本全国どこへ行っても友だちがいるような感じになってすごく楽しいですよね。仏像も同じです。不動明王という友だちを知ったら、日本全国どこへ行っても不動明王という友だちに会える。由来や面白いエピソードは思い出になる。
――桜庭さんはお好きな作家は……いっぱいいらっしゃるでしょうけど(笑)、数人挙げていただくと?
桜庭 ディクスン・カー(笑)。
――はい(笑)。
桜庭 あとはミステリの読書の原点がホームズなのでコナン・ドイル。あ、でも『赤朽葉家』とは関係ないですね。うーん、ヒラリー・ウォーとかシーリア・フレムリン、シャーロット・アームストロング……。
――ミステリ作家以外ですと。
桜庭 言いづらいんですけど、ガルシア=マルケス。それから、こうした大作を書くきっかけになったのは、『レ・ミゼラブル』などの大河小説をポプラ社などが子供向けにわかりやすく訳したのを読んでいて、すごく長い一族や人生の話が、短く怒濤の展開でまとめられているのが好きだったからです。『巖窟王』や『三銃士』など、海外のものが好きです。
――おふたりとも長編、短編ともに評価されていますが、ご自分ではどちらが書きやすいですか?
道尾 どっちも好きです。モチベーション的にはどちらも書きたい。テーマとしては、短編でしか書けないもの、長編でしか書けないものをそれぞれ書きたいと思っています。1000枚の大長編、みたいなものは、いずれ筆が円熟してからと考えていますが。ここしばらくは600枚くらいの分量がいいです(笑)。
桜庭 わたしは長編が好き。読むのも長い小説が好きだから、書くのも長いものが好きです。短編なら、連作短編にして同じ舞台を登場させ、全部つなげるとひとつの物語になる、というのは書けるんですけど。「わっ」と思う、すごく面白い短編も好きですが、なかなか上手に書けません。短編は本当に難しいです。
――最後に今後の予定をお願いします。
道尾 〈別冊文藝春秋〉連載の『ソロモンの犬』が8月に本になります。それから〈ジャーロ〉で2回分載される『ラットマン』が来年早々に単行本化します。〈野性時代〉の、怪談とミステリの中間みたいな連作短編も来年本になる予定。夏から〈小説すばる〉で不定期の連載、〈メフィスト〉で長編の連載が始まります。
桜庭 6月に『青年のための読書クラブ』が新潮社から出ます。ミステリではなく、『赤朽葉家』のように長い時間が流れる話です。女子校が舞台で、1919年にできてから2019年になくなるまでの100年間の物語。その間ずっと続く読書クラブがあって、いろんな人が出はいりします。革命を起こそうとして失敗するゲバラみたいな子がいたり、王子様みたいな子がいたり。それと、エッセイですが東京創元社の〈Webミステリーズ!〉で連載していた『桜庭一樹読書日記』が7月に。〈別冊文藝春秋〉で連載している『私の男』が10月頃。これは罪を犯した父娘の暗い逃避行を描いた、少しサスペンス的なところのある話です。
――本日はありがとうございました。