東京創元社60周年

 

わたしと東京創元社  山本 弘(作家)

 

薔薇の名前

 高校時代、金がなくて本が買えなかったので、毎日、学校の帰りに駅前の書店で長々と立ち読みをしていた。書店にとってはさぞ迷惑な客だっただろう。ごめんなさい。

 

 立ち読みだから長編を読むのは難しい。もっぱら読んでいたのは短編だ。特に創元推理文庫は、海外SF作家の短編集をよく出していたのでありがたかった。ヴァン・ヴォークト『時間と空間のかなた』、アンダースン『地球人よ、警戒せよ!』、ブラッドベリ『ウは宇宙船のウ』、ブラウン&レナルズ編『SFカーニバル』……。

 

 中でもお気に入りはフレドリック・ブラウン。特に『天使と宇宙船』に収録された「ミミズ天使」には衝撃を受けた。「小説ってこんなことをやってもいいんだ!」――それを僕に教えてくれたのは「ミミズ天使」だった。

 

『天使と宇宙船』は今でも僕のフェイバリットである。あっ、立ち読みだけじゃなく、後でちゃんと買いましたよ、はい。

 


■山本 弘(やまもと・ひろし)
1956年京都府生まれ。78年「スタンピード!」で第1回奇想天外SF新人賞佳作に入選してデビュー。06年『アイの物語』が第27回日本SF大賞及び第28回吉川英治文学新人賞の候補に選ばれる。11年『去年はいい年になるだろう』で第42回星雲賞を受賞。主な著書に『神は沈黙せず』『MM9』『MM9―destruction―』『プロジェクトぴあの』などがある。12月に〈Webミステリーズ!〉連載、『翼を持つ少女 BISビブリオバトル部』を刊行。