東京創元社60周年

 

わたしと東京創元社  北村 薫(作家)

 

月光ゲーム

 中学生になったばかりの頃だったろうか。クイーンを『X』『Y』『Z』まで新潮文庫で読み進んだ。ところが、続きがまだ新潮で出ていなかった。そこで、――あってよかった創元推理文庫。田舎ではまだ珍しかったが、以来、どれほどお世話になったことか。昭和三十四年の刊行、これを略せばSSB34。今現在の認知度はAKB48のほうが上だろう。しかし、あちらは半世紀経った時、現役でやっているだろうか。ベストセラーより上にあるのがロングセラー。それを思えば、ああ偉大なり創元推理文庫、そして東京創元社。

 


■北村薫(きたむら・かおる)
1949年埼玉県生まれ。89年『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で第44回日本推理作家協会賞を受賞。2006年『ニッポン硬貨の謎』で第6回本格ミステリ大賞の〈評論・研究部門〉を受賞。他の著作は〈円紫さんと私シリーズ〉『覆面作家は二人いる』『冬のオペラ』『八月の六日間』など多数。