東京創元社

夜の国のクーパー

伊坂幸太郎 いさかこうたろう

これは猫と戦争と、そして何より世界の理のおはなし。
伊坂幸太郎が放つ十作目の書き下ろし長編諸説、渾身の傑作。

夜の国のクーパー 伊坂幸太郎

定価:
842円(本体価格:780円)
発売日:
2015年3月20日
ISBN:
978-4-488-46402-8
判型:
文庫版
ページ数:
462ページ
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内容紹介

この国は戦争に負けたのだそうだ。占領軍の先発隊がやってきて、町の人間はそわそわ、おどおどしている。 はるか昔にも鉄国に負けたらしいけれど、戦争に負けるのがどういうことなのか、町の人間は経験がないからわからない。
人間より寿命が短いのだから、猫の僕だって当然わからない──。

これは猫と戦争と、そして何より、世界の秘密のおはなし。
どこか不思議になつかしいような/誰も一度も読んだことのない、破格の小説をお届けします。

ジャンル分け不要不可、渾身の傑作。伊坂幸太郎が放つ、
10作目の書き下ろし長編。

著者あとがき=伊坂幸太郎

少し読んでみる

クーパーの兵士の話を読む

インタビュー

「ミステリーズ!vol.53」(6月11日刊行)に掲載されるインタビューより一部抜粋して先行公開! 書き下ろし最新刊『夜の国のクーパー』がどのように執筆されたのか、その経緯を伊坂幸太郎先生に語って戴きました。

(インタビュアー:松浦正人)

――
『夜の国のクーパー』にはいろいろな楽しみがつまっていて、どこからお話をうかがったらいいか迷うんですが、最初の十ページがまず強烈でした。なにかが始まっているところに、いきなり放りこまれるでしょう。凄い臨場感でした。
伊坂
いや、それはまさに……最初のそれこそ十ページぐらいだけ書いて、担当編集者のK島さんに読んでもらったんですよ。K島さんも、これを待っていました、みたいな感じでして。でも、実はそこしか書きたくなかったんですよ(笑)
――
え。どうしてまた、そんな。
伊坂
この本は、書くのに二年半ぐらいかかってるんです。そもそもの発端は、北朝鮮のミサイル問題でした、三年くらい前ですかね。ミサイル自体は、まあ日本に落ちることはないと思っていたんですけど、戦争って世の中で一番、僕には怖いものなんですよ。ほんとにすべてが壊れちゃうじゃないですか。あと、誰かが狙って殺しにくる恐怖というのがあったんで、もし戦争状態になったら、僕なんて無防備ですし、仙台だってすぐ支配されてしまうんだろうな、みたいなことを考えていたら怖くなっちゃって。そんなときに、書いてしまえば落ち着くかなと思ったんです。要するに、支配された場面に向き合えば、何か落ち着くんじゃないか、とショック療法的に(笑)。ダイレクトに扱うと小説ではなくなっちゃうから、架空の国で、戦争に負けちゃったところを書こうかな、それから、最後に、頼りにしている人が殺されてしまう絶望的な場面までを書こう、と
――
ああ、ほんとうに、そこまでだったんですね。
伊坂
そうなんです。ただ、それではあまりに救いがないんで、なんとか、この状況から物語を発展させられないかなと思ったんですよ。つらい話なんだけど、つらくないようにする構造ってつくれないものかと考えているうちに方策を思いついて、ああ、これで書けるんじゃないかと。(略)
――
大江健三郎さんの『同時代ゲーム』(新潮文庫)のことを、『夜の国のクーパー』のあとがきでお書きになっていましたね。
伊坂
実は今回、執筆中に、ざっと読み返したんです。おこがましいんですけれど、結構似ていて、やっぱり、影響は大きいのかなあ、と思ったりして。固有名詞のつくり方は意識的に真似したんですが、それ以外の部分も、もっと大きなモチーフ、巨人じゃないけど、巨大化する人、壊す人、という存在とかもやっぱり、大好きですし。あの小説は理想ですね
――
題名にもなっているクーパーという生き物について聞かせてください。杉の樹が変態して動きはじめる、あの薄気味の悪いイメージはとてもリアルでした。
伊坂
それは嬉しいですね。あれには裏話があるんですよ。クーパーは最初、普通の巨人だったんです。戦争のメタファーというか、でっかいものと戦いに兵隊が行くというのを書きたかったので、僕は巨人が好きですから、巨人と戦うことにしようと考えたわけです。そしたら、諫山創さんの『進撃の巨人』(講談社コミックス)という漫画が出て、それはすごく面白かったんですけど、かぶってしまっているんですね。巨人のことだけじゃなく、町が壁で囲まれている部分も同じでして。それでもう、このままでは似通ってしまうし、『進撃の巨人』ファンの方に申し訳ないし、とK島さんといろいろ考え込んでしまいまして。(中略) どうしようと思ったときに、公園でヒマラヤ杉を見ていて……巨人じゃなくて樹か、と
――
ああ。それで変わったんですか。
伊坂
そうなんですよ。樹だったら、『進撃の巨人』にも迷惑をかけずに(笑)なんとかなるかなって。樹が動きだす、根っこがとれて歩けるようになる。まあ、杉の魔人みたいなものですね。でも、それでもまだ決心がつかずにいたんですが……去年、うちで、カブトムシの幼虫をたくさん飼っていまして、蛹からかえるところをビデオで撮ったりしてたんです。幼虫が蛹になるときって、気持ち悪いけど不思議なんですよね。(中略)それで杉の木が、蛹になることにしよう、と思いまして
――
『夜の国のクーパー』も、ばらまかれている伝説や証言は、読者からすれば結構てんやわんやという感じなんですが……
伊坂
そうですよね(笑)
――
最後にくると、非常にシンプルで力強い。こういう歴史で、こういう原理で動いていた国だというのが、ものすごく説得力がありました。現実的な解決が与えられているんだけれども、とても意外ですし、ああなるほど、とも思いました。
伊坂
冷静に考えると、いろいろ気になっちゃう部分はあると思うんですよね(苦笑)。でも、そういう細かいところは別にして、ああ、なるほどね、と納得できて、ちょっと感じ入るものもある、という着地ができたんじゃないかなとは感じています。もともと、リアリティとかとは無縁の作風なので、きっと読者もついてきてくれる、と信じています。いや、嘘です、不安です(笑)。でも、楽しんでもらえればいいなあ、と今は祈る気持ちです。
(「ミステリーズ!vol.53」より一部抜粋)


夜のクーパーをより楽しむための作品

麗しのオルタンス

ジャック・ルーボー/
高橋啓 訳 創元推理文庫

吾輩は猫である

夏目 漱石
岩波文庫

トムとジェリー
DVDBOX

宝島社

トリフィド時代
―食人植物の恐怖

ジョン・ウィンダム
/井上 勇 創元SF文庫

進撃の巨人(1)

諫山 創
少年マガジンKC

同時代ゲーム

大江健三郎
新潮文庫