「ミステリーズ!vol.53」(6月11日刊行)に掲載されるインタビューより一部抜粋して先行公開! 書き下ろし最新刊『夜の国のクーパー』がどのように執筆されたのか、その経緯を伊坂幸太郎先生に語って戴きました。
(インタビュアー:松浦正人)
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- 『夜の国のクーパー』にはいろいろな楽しみがつまっていて、どこからお話をうかがったらいいか迷うんですが、最初の十ページがまず強烈でした。なにかが始まっているところに、いきなり放りこまれるでしょう。凄い臨場感でした。
- 伊坂
- いや、それはまさに……最初のそれこそ十ページぐらいだけ書いて、担当編集者のK島さんに読んでもらったんですよ。K島さんも、これを待っていました、みたいな感じでして。でも、実はそこしか書きたくなかったんですよ(笑)
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- え。どうしてまた、そんな。
- 伊坂
- この本は、書くのに二年半ぐらいかかってるんです。そもそもの発端は、北朝鮮のミサイル問題でした、三年くらい前ですかね。ミサイル自体は、まあ日本に落ちることはないと思っていたんですけど、戦争って世の中で一番、僕には怖いものなんですよ。ほんとにすべてが壊れちゃうじゃないですか。あと、誰かが狙って殺しにくる恐怖というのがあったんで、もし戦争状態になったら、僕なんて無防備ですし、仙台だってすぐ支配されてしまうんだろうな、みたいなことを考えていたら怖くなっちゃって。そんなときに、書いてしまえば落ち着くかなと思ったんです。要するに、支配された場面に向き合えば、何か落ち着くんじゃないか、とショック療法的に(笑)。ダイレクトに扱うと小説ではなくなっちゃうから、架空の国で、戦争に負けちゃったところを書こうかな、それから、最後に、頼りにしている人が殺されてしまう絶望的な場面までを書こう、と
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- ああ、ほんとうに、そこまでだったんですね。
- 伊坂
- そうなんです。ただ、それではあまりに救いがないんで、なんとか、この状況から物語を発展させられないかなと思ったんですよ。つらい話なんだけど、つらくないようにする構造ってつくれないものかと考えているうちに方策を思いついて、ああ、これで書けるんじゃないかと。(略)