【Webミステリーズ! Science Fiction】
二〇代の夢枕獏が、 ここにいる。
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圧倒的な筆力で描かれた 最初期幻想SF傑作集
08年3月刊 『遙かなる巨神』
(創元SF文庫版まえがき[全文])
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夢枕獏
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ぼくの最初期の短編集である。
この中に収められている話の多くは、二〇代に書かれたものだ。
商業誌デビュー作となった「遙かなる巨神」(発表時は「巨人伝」であった)、「カエルの死」もこの中に入っている。
デビューが二十六、七歳。
今年(二〇〇八年)ぼくは五十七歳になった。
今は、デビューまでよりも、デビューしてからの方が、長く生きてしまっている。
なんとも不思議なことだ。
たぶん、デビュー直後には、『魔獣狩り』を書き出していたと思う。その『魔獣狩り』は、今も書き続けられていて、おそろしいことにまだ、完結していない。
二〇代の夢枕獏が、ここにいる。二〇代の頃は、まさか、自分が、こうやって五十七歳になって、このような本の“まえがき”を書くことになるとは考えてもいなかった。
この本の中で“タイポグラフィクション”とページタイトルが入っているものがあるが、これは、もともとは“タイポグラフィック・ストーリー”と呼ばれていたものだ。
タイポグラフィクションは、後になってぼくが命名したものである。
活字で遊ぶこういった手法は、以前からあって、長い作品の一部としてやられてはいたものの、ここまで確信犯として作品化したのは、たぶんぼくが最初だと思う。
このやり方は、CMなどで何度もパクられており、中にはほとんどぼくの作品そのものといっていいようなものさえあったが、くやしいというよりは、パクられて嬉しいという気分の方が大きかったような気がする。
いやいや、なつかしい。
二〇〇八年二月二十二日
九十九乱蔵「黄石公の犬」を脱稿した夜、小田原にて――
夢枕 獏
(2008年3月)
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■ 夢枕獏(ゆめまくら・ばく)
1951年神奈川県小田原市生まれ。東海大学文学部卒。1977年、〈奇想天外〉誌に「カエルの死」が掲載されデビュー。1989年の『上弦の月を喰べる獅子』で第10回日本SF大賞、第21回星雲賞を、1997年の『神々の山嶺』で第11回柴田錬三郎賞を受賞。他の作品に〈キマイラ・吼〉〈サイコダイバー〉〈陰陽師〉等のシリーズ、『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』など。『遙かなる巨神』は、最初期の幻想SF作品の精華を集成した傑作集である。
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