単行本にあとがきをつけるのは久しぶりのような気がします。あとがきを書くのがあまり得意ではなくて、いつも短くなってしまうので、あまりつけなくなりました。
で、今回どうしてあとがきをつけようと思ったのか、理由は二つあります。ひとつは、本作が雑誌に連載されていた時から数年が経ち、時代の変化があまりにも早くて、すでに「え、なにそれ」と違和感をおぼえられるだろうな、という部分が出て来てしまったからです。そもそもの冒頭から、主人公は大変な就職難と戦っているのですが、あれから数年、多々疑問はあるものの、とりあえず今は「景気は悪くない」状態だそうですね。新卒者の就職も、「難」というほどではない、そうです。その他にも、指紋認証キーが意外と普及しなかったな、とか、パスネットなんて今月で廃止でしょ、とか、なんとまあ、めまぐるしく変化するのでしょうか、現代は!
しかしこれは小説ですから、そんな変化は「えい」と目をつぶればそれでいいわけですが、とりあえず、読まれて違和感をおぼえられた方がいるかもしれませんので、巻末の「初出一覧」を参考に、いつ頃書かれたものかな、と確かめていただければ、と思います。って、そんなめんどくさいことしませんよね、ふつう(笑)
この本が文庫になる頃には、パスネット、なんて単語自体、注釈でもつけないとわからない言葉になってしまっているのかも。ああ、時が経つのは早い。あまりにも早い。わたしも歳をとるわけです……
もうひとつ。これはお詫びです。本作のシリーズが雑誌〈ミステリーズ!〉で完成する前に、『朝顔はまだ咲かない』の連載が始まってしまい、そちらが先に本になってしまいました。石狩くんとその愉快な仲間たちのファンだった皆様は、さぞかしご立腹だったことと思います。もうしわけありません。でも、なんとか今回本にすることができて、わたしも担当者もとても喜んでいます。もしこの本が売れたら、もっと続きも書かせてもらえるかもしれませんので、どうぞよろしくお願いいたします。
実は、本作の最終話は書き下ろしなのですが、ほんの十分ほど前に脱稿したばかりです。その原稿をメールにつけて担当者に送信した時、一通のメールが届きました。石狩くんのファンの方からのメールでした。東京創元社のメルマガを購読されていて、それでこの本の発売を知ったらしく、とても嬉しいと書いてくださっていました。何しろ、最終話を脱稿したその瞬間に届いたメールですから、あまりのタイミングのよさに思わず、「あとがきに言及させてください」と返信してしまいました。
愛読者の存在というのは、本当に、本当にありがたいものだなあと、しみじみ思います。心から嬉しいです。雑誌で掲載していた物語を、何年も本になるまで待っていてくださるなんて。
こうした愛読者の皆様、そして、こうやって本を買ってくださった皆様(含・買おうかどうしようか、あとがきを立ち読みして思案中の皆様)に支えられて、わたしはこれまで、作家としてなんとかやって来られました。これからも、相変わらず不器用にではありますが、読者に楽しんでいただける作品を書くよう努力してまいります。
日々、(株)魔泉洞で悪戦苦闘する石狩くんともども、なにとぞ、よろしくお願いいたします。
(2008年5月)