杏子と多絵を主人公にした〈成風堂書店事件メモ〉のシリーズも、これで三冊目です。けっして筆が速いわけでも、アイディアが泉のようにわき出るのでもないのですが、書店を舞台にした短編としては、どうしてもやってみたいものがあったのです。
取り寄せ──これについては、どの書店員さんにも、それこそ売るほどたくさんの悲喜こもごもがおありかと。『配達あかずきん』を出して以来、さまざまなお店で働く書店員さんにお会いしましたが、話題がこれになるととたんに盛り上がます。
社会科見学の小学生──たまにいらっしゃいます。たまですが、インパクトはあります。町の本屋さんを好きになってほしいなと、心から思うこちらの感慨とは裏腹に、嵐のようにやってきて嵐のように去っていきます。
付録──もしくは販促物。非常にたくさんの種類があるのですが、あれはいったい誰が考え、どういう狙いでつけてくるのでしょうか。知りたいです。あれも、これも。脳裏に次々浮かびます。その謎は作中、残念ながら解き明かされず……すみません。
サイン会──書店のイベントとして真っ先に浮かびます。今回、迎える側の書店員さん、そして、いらっしゃる側の作家さん、編集者さん、営業さんと、お話を伺いました。皆さん、読者さんをとても大事にされている、それを深く実感いたしました。
忘れもの──買ったばかりであろうケーキの箱というのも切ないですが、ぬいぐるみ、ミニカー、小さな帽子というのも胸が痛みます。会計した本を持ち忘れる、本を受け取り釣り銭を忘れる、買おうとしたら財布を忘れてきた。大丈夫、よくあることですもの。
書いてみたい題材が五点。そして五本の短編ができました。
「取り寄せトラップ」
「君と語る永遠」
「バイト金森くんの告白」
「サイン会はいかが?」
「ヤギさんの忘れもの」
どうぞよろしくお願いいたします。
お楽しみいただければ幸いです。
(2007年4月)