東京創元社60周年

 

わたしと東京創元社  有栖川有栖(作家)

 

月光ゲーム

 小学生の間にめぼしい児童向けミステリはあらかた読んでしまったので、中学生になってすぐ文庫本に手を伸ばした。読みだしたらやめられなくなり、食事中にも本を離せなかってしまう。それが創元推理文庫の『オランダ靴の謎』(エラリー・クイーン/井上勇訳)だった。以来、本格マークを中心に創元推理文庫を片っ端から読み、ミステリの世界にずぶずぶと入っていく。

 

 その当時からミステリ作家を志望して創作を始め、苦節十八年目にして『月光ゲーム』という長編でデビューを果たせた。拙作を世に出してくれた版元こそ、東京創元社。ミステリ者としての自分を育(はぐく)んでくれた出版社(しかも海外ミステリ専門だと思っていた)からデビューできためぐり合わせを喜ぶともに、とても不思議に感じた。

 

 東京創元社は、二重の意味で〈わが故郷〉だ。どこよりも特別な出版社で、その気持ちはいつまでも変わらないだろう。

 


■有栖川有栖(ありすがわ・ありす)
1959年大阪府生まれ。同志社大学卒。89年『月光ゲーム』でデビュー。2003年『マレー鉄道の謎』で第56回日本推理作家協会賞、08年『女王国の城』で第8回本格ミステリ大賞を受賞。主な著書に『孤島パズル』『双頭の悪魔』『46番目の密室』『乱鴉の島』『江神二郎の洞察』などがある。