わたしと東京創元社 高橋 啓(翻訳家)
東京創元社の本には長いことお世話になってきたけれど、特別思い入れのある本をあげるとするなら、次の四点になるだろう。
- 1.『ポオ全集』(全三巻)編集委員・佐伯彰一、福永武彦、吉田建一、一九七五年(昭和五十年)、新装版八版
- 2.『精神と情熱とに関する八十一章』アラン、小林秀雄訳、一九七八年(昭和五十三年)初版
- 3.『アビシニアのランボー』アラン・ボレル、川那部保明訳、一九八八年(昭和六十三年)初版
- 4.『薔薇の名前』ウンベルト・エーコ、河島英昭訳、一九九〇年(平成二年)初版
最初の二点は学生時代に購入したもの。ポーも小林秀雄も、当時の私にとっては神のごとき存在だった。3は数あるランボー論のなかで、唯一、我が意を得たりと唸(うな)った本。ぜひとも復刊してほしい。4は、ちゃんと初版を買っているところがえらい。これらの本を読んでいるときには、東京創元社から訳書を出すことになろうとは想像だにしなかった。きっと導くものがあったのだろう。
■高橋 啓(たかはし・けい)
1953年北海道生まれ。早稲田大学卒。2014年、翻訳を手掛けたビネ『HHhH』が2014年本屋大賞翻訳小説部門第1位に選ばれる。主な訳書にオランデール=ラフォン『四つの小さなパン切れ』、キニャール『さまよえる影』『アマリアの別荘』、ルーボー『麗しのオルタンス』などがある。