わたしと東京創元社 藤野恵美(作家)
東京創元社といえば、ジョナサン・キャロルやゴーメンガースト三部作やレイ・ブラッドベリの『何かが道をやってくる』といった作品が好きで、翻訳小説の印象があったのですが、日本探偵小説全集と出会ったおかげで、読書の幅が広がりました。
その後、東京創元社から本を出すことになり、嬉しさと同時に、プレッシャーを感じました。東京創元社のミステリだなんて、相当にマニアックでその道に精通しているひとが書くものだという気がしたのです。
及び腰になりつつも、思い浮かんだのが北村薫さんの『空飛ぶ馬』でした。
そこで、自分でも日常の謎を描いた『ハルさん』という連作短編を書いてみました。
日本探偵小説全集を編集した人物が、のちに北村薫という筆名で小説を書いていたと知ったのは、つい最近のことです。
創元推理文庫の棚に自分の本が並んでいるのを見るたびに、運命の導きあるいは伏線の回収といったものを感じるのでした。
■藤野恵美(ふじの・めぐみ)
1978年大阪府生まれ。2003年、第20回福島正実記念SF童話賞に佳作入選。翌04年に『ねこまた妖怪伝』で第2回ジュニア冒険小説大賞を受賞してデビューする。アメリカで翻訳出版されている現時点での代表作〈怪盗ファントム&ダークネス〉シリーズのような躍動的なエンタテインメントから、心理描写をメインとした『ゲームの魔法』のような端整な作品までを書き分け、児童文学界で注目を浴びている俊英。著作に『紫鳳伝 王殺しの刀』『七時間目の怪談授業』『七時間目の占い入門』『妖怪サーカス団がやってくる!』など。