東京創元社60周年

 

わたしと東京創元社  池 央耿(翻訳家)

 

月光ゲーム

 一九七三年に「創元文庫五〇〇点刊行突破記念」を謳(うた)ったドン・ペンドルトンの『死刑執行人シリーズ』がはじまって、第一作を手がけて以来だから、東京創元社とは久しい付き合いだ。年月を経るうちには何かと得難い機会に恵まれた。J・P・ホーガンのSFや、アシモフの短編連作もその類いで、創元文庫に収録された作品は総じて寿命が長い。時間の淘汰はあるにせよ、出した本は絶版にしない原則に負うところ大だろう。それを思えば、東京創元社は古典の継承と、若い読者層拡大という文庫本来の役目を果たしている数少ない版元の一つと言える。二〇一〇年に「文庫創刊五〇周年記念出版」と銘打って同社が刊行した『文庫解説総目録[付・資料編]』は完備した内容で、戦後日本文化史の断面を見せてくれる。六十年の実績に敬意を表する次第である。

 


■池 央耿(いけ・ひろあき)
1940年東京都生まれ。国際基督教大学卒。著書に『翻訳万華鏡』、訳書にアシモフ〈黒後家蜘蛛の会シリーズ〉、シュート『パイド・パイパー』、ホーガン『星を継ぐもの』、メイル『南仏プロヴァンスの12ヶ月』などがある。