著者のことば

『折れた竜骨』は、魔法が存在する十二世紀末のヨーロッパを舞台にしたミステリです。
魔法とミステリの取り合わせに面食らう方もいらっしゃるかもしれませんが、幽霊や超能力など、現実にはあり得ない力を援用するミステリはけっこうあるのです。私はかつて、それら特殊な設定を用いたミステリを、心躍らせて読んだものでした。読者とのあいだに交す約束事さえしっかりしていれば、その約束事がたとえこの世のものでなかったとしても、ミステリは成立する。そこにミステリという知的遊戯の懐の深さを見たからです。
本作がどこかの誰かに、かつて私が覚えたような昂奮を与えてくれることを願ってやみません。

あらすじ

ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた……。

自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、「走狗(ミニオン)」候補の八人の容疑者、いずれ劣らぬ怪しげな傭兵たち、沈められた封印の鐘、鍵のかかった塔上の牢から忽然と消えた不死の青年――そして、甦った「呪われたデーン人」の襲来はいつ?魔術や呪いが跋扈する世界の中で、「推理」の力は果たして真相に辿り着くことができるのか?

物語の時代背景

12世紀末。イングランドのリチャード獅子心王が第三回十字軍に参戦。神聖ローマ帝国のフリードリヒ赤髭王は東方で意外な死を遂げる。日本の平安時代後期から鎌倉時代最初期にあたる。

登場人物相関図

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登場人物紹介

ソロン島の人々

ローレント・エイルウィン
ソロン領主。若かりし頃、呪われたデーン人からの襲撃を撃退した。その後はソロンの街を繁栄させた英雄。再度、デーン人の襲撃があることを知りその備えのために傭兵を集めるよう命じた。その矢先、何者かに暗殺されてしまう。
アダム・エイルウィン
アミーナの兄。次期ソロン領主。
アミーナ・エイルウィン
領主の娘。16歳。聡明で行動力のある少女。ソロン以外の世界に憧れを持つ。しかし、暗殺騎士の謀略により父ローレントを殺害されてしまう事で彼女の運命は大きく変わっていく。暗殺者を捜し出すため、暗殺騎士を追って旅するファルク、ニコラと行動を共にする。
エイブ・ハーバード
従騎士。領主ローレントに忠実に仕え、訓練も怠らない誠実な人物。騎士叙任の機会を窺っている。
エドウィー・シュアー
衛兵。ローレントに使える忠実な老兵。しかし、ある冬の晩に不可解な死を遂げてしまう。
ロスエア・フラー
家令。エイルウィン家の使用人の長。しかし、アミーナから見るとあまり頼りがいのない様に思える。
ヤスミナ・ボーモント
侍女。アミーナに仕える一番若い使用人。仕事に失敗が多いものの、明るく人をおおらかな気持ちにしてくれる娘。
マーティン・ボネス
ソロン市長。仕立職人でもある。

ソロン来訪者

ファルク・フィッツジョン
トリポリ伯国の聖アンブロジウス病院兄弟団の騎士。魔術を使い、暗殺騎士と呼ばれる敵を追って各国を旅している。
すぐれた知能と深い経験を元に暗殺騎士の痕跡をだどり追い詰めていく。ソロンには宿敵である暗殺騎士を追ってきた。
ニコラ・バゴ
ファルクの従士。アミーナよりも年下らしく、まだ幼さが残る男子。しっかり者らしく師でもあるファルクに小言を指す事も。トロワに住んでいたが父親を暗殺騎士に殺される。仇を討つために、ファルクに従い旅をしている。
コンラート・ノイドルファー
遍歴騎士。ザクセン人。騎士としての名声と富を求めている。粗野な部下を引き連れている。
イテル・アプ・トマス
弓手。ウェールズ人。弓の使い手。グロスタシャーの荘園で働いていた事もあり、イングランド語を使える。弟ヒム・アプ・トマスと共に傭兵をしている。
ハール・エンマ
傭兵。マジャル人。東方の蛮族で恐ろしく強い。イングランド語はあまり理解していないらしい。
スワイド・ナズィール
錬金術師。サラセン人。見た目は幼い子供だが、呪いによってその姿となっていると主張する。3メール程の青銅巨人を操る魔術を持つ。
イーヴォルド・サムス
吟遊詩人。イングランド人。イーヴォルドの父ウルフリックはローレントと共にデーン人の戦いに参加しており、その時の様子をバラッドとして残していた。それを継承し、ローレントの元へやってきた。

襲撃者

トーステン・ターカイルソン
呪われたデーン人。不死の捕虜。ローレントがデーン人と戦った時に捕まり、20年間塔に囚われ続けている。
エドリック
暗殺騎士。ファルクが追い続ける宿敵。元は同じ兄弟団に属していたが、サラセン人の魔術を研究するうちに暗殺騎士へと身を落としてしまった。ソロンを訪れたらしい。

用語紹介

暗殺騎士
元々はトリポリ伯国の聖アンブロジウス病院兄弟団に属していたが、敵対するサラセン人の魔術を研究するうちに魅入られてしまい、様々な謀略を図るようになった者たち。
『走狗』(ミニオン)
暗殺騎士により、その意志とは関係なく暗殺者として仕立て上げられた刺客。自分の役割として、己の知識と力量を生かし標的を殺す。

物語に登場する主な国とその民族

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著者紹介

米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)

1978年岐阜県生まれ。2001年、『氷菓』で角川学園小説大賞奨励賞(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞しデビュー。 青春小説としての魅力と謎解きの面白さを兼ね備えた作風で注目され、『春期限定いちごタルト事件』などの作品で人気作家の地位を確立する。また05年刊行の『犬はどこだ』以降は「このミステリーがすごい!」ランキングの常連になり、2010年度版では作家別得票数第一位を獲得した。本書『折れた竜骨』で第64回日本推理作家協会賞を受賞。他の著書に『さよなら妖精』『ボトルネック』『インシテミル』『追想五断章』などがある。

森谷明子さんによる文庫版解説(全文)を読む(Webミステリーズ!)

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