東京創元社60周年

 

わたしと東京創元社  麻耶雄嵩(作家)

 

僧正殺人事件

 東京創元社の本で一番最初に読んだのは、たぶん中一の時に人から借りたヴァン・ダインの『僧正殺人事件』です。初めてのヴァン・ダインでもありました。この本にしたのは、手から真っ赤な血が滴り落ちる表紙に惹かれたため。予備知識はひとつもありませんでした。で、いきなり『僧正』を読んだ感想は、「面白いのか面白くないのかよく解らんが、とにかく凄い!」でした。興奮しました。同時に、役に立ってるのか立っていないのか解らない名探偵ファイロ・ヴァンスの魅力にも嵌(は)まってしまいました。メルカトル鮎があんなキャラになったのも、彼の影響かも。

 

 ということで、『僧正』および表紙のインパクトが強すぎたため、東京創元社には未だにゴチックで不気味なイメージを持っています。本社は挿図のような都会(ビル)の狭間(はざま)にある胡散臭(うさんくさ)い建物に違いない、とか。そのせいもあり、戸川さんに初めてお会いしたとき、某教授並のめっちゃ恐ろしい人に見えました。

 


■麻耶雄嵩(まや・ゆたか)
1969年三重県生まれ。京都大学卒。91年『翼ある闇』を発表してデビュー。2011年『隻眼の少女』で第64回日本推理作家協会賞及び第11回本格ミステリ大賞を受賞。主な著書に『夏と冬の奏鳴曲』『鴉』『貴族探偵』『メルカトルかく語りき』などがある。