東京創元社60周年

 

わたしと東京創元社  宮内悠介(作家)

 

月光ゲーム

最初に買った東京創元社の本は北村薫さんの『空飛ぶ馬』であったと思います。ワセダミステリクラブで先輩や同輩の勧める本を(不真面目ながらに)読みながら、やがて「このような出版社からデビューしてみたい」と思うに至りました。それから十年余り、東京創元社は憧れでありつづけ――そしていま、私の最初の単著を出版してくれた出版社となりました。本来なら、このような自分自身のことなどでなく、東京創元社を通じて得た豊かな読書体験を語りたいのですが、いまだ成熟に遠く、なかなか余裕というものが持てない私の頭に浮かぶのは、何者でもない自分を発見してもらえたという恩義ばかりなのです。

 


■宮内悠介(みやうち・ゆうすけ)
1979年東京生まれ。92年までニューヨーク在住、早稲田大学卒。在学中はワセダミステリクラブに所属。2010年「盤上の夜」で第1回創元SF短編賞山田正紀賞を受賞しデビュー。また同作を表題とする『盤上の夜』は第一作品集ながら第147回直木賞候補となり、第33回日本SF大賞を受賞。またこの書籍収録段階で短編「盤上の夜」が第44回星雲賞日本短編部門の参考候補作となった。さらに第二作品集『ヨハネスブルグの天使たち』も第149回直木賞候補となり、第34回日本SF大賞特別賞を受賞した。2013年、第6回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。