わたしと東京創元社 東川篤哉(作家)
わたしにとって東京創元社は本格ミステリの世界へと続く玄関みたいなもの。小学生時代、子供向けにリライトされたホームズやルパンを読んでミステリに目覚めたわたしが、中学生になって大人向けの(リライトされていない)本格モノを読もうと思って最初に手にしたのが、何を隠そう創元推理文庫のディクスン・カー『連続殺人事件』でした。やがて時代は流れ、気がつけばわたしも幸運なデビューを飾りミステリ作家の一員に。すると間もなく、その東京創元社の桂島氏から「うちで書きませんか」とのお誘いが。嬉しく思う反面、こりゃうっかり下手なものは書けないな、と思いながら恐る恐る書き下ろしたのが、『館島』という作品でした。わたしにとって『連続殺人事件』がそうであったように、誰かにとって『館島』が本格ミステリの世界に入るキッカケの一冊となり、その人がミステリ作家になって(作中で)誰か殺せば、これがホントの『連続殺人事件』ですね!
■東川篤哉(ひがしかわ・とくや)
1968年広島県生まれ。岡山大学卒。鮎川哲也編『本格推理』への投稿・入選を経て、2002年〈KAPPA-ONE〉の第一期生として『密室の鍵貸します』でデビュー。2011年、『謎解きはディナーのあとで』で本屋大賞を受賞。著作は他に『学ばない探偵たちの学園』『交換殺人に向かない夜』『館島』『もう誘拐なんてしない』など。